2012年1月30日月曜日

レパントの海戦(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:1992年 本体価格:476円
 オスマン=トルコとスペイン、ローマ法王そしてベネチア共和国を主体にした連合軍との戦いで、キリスト教(カソリック)が勝利をおさめた海戦だ。このレパントの戦いでもしオスマン=トルコが勝利していたのであれば、キュプロス島から一気に地中海をトルコは傘下におさめ、地中海沿岸はイスラム色にそまっていた可能性がある。スペインもフランスも神聖ローマ同盟もどうなっていたのかわからない。
 歴史に名を残す海戦ではあるが、著者の視線は商業国家に徹したベネチア共和国に主に注がれ、ローマ法王やフェリペ2世が率いるスペインにはやや厳しい。もっとも世界史の教科書ではレパントの海戦ではフェリペ2世が勝利した、と著述されることが多いのではあるが。16世紀のヨーロッパでは宗教改革による騒乱があいつぎ、フランスはカトリーヌ・メディシスによる宗教騒乱とトルコとの同盟関係、英国はエリザベス1世よりもメアリ=スチュワートを支持する法王との確執、神聖ローマ帝国は国境線とのトルコとの一時和平ということで、実際にオスマン=トルコと戦えたのは、ジェノヴァ共和国、法王、スペイン王国、そしてベネチア共和国といった布陣で、しかもこの同盟軍の仲がまた非常に悪い。その仲の悪さをいかにして克服したのか、というとこの本を読む限りは「偶然」と実力のあるベネチア共和国の参謀の存在といったあたりに落ち着きそうだ。実際にはこのレパントを境に、世界史の舞台は地中海から大西洋へ。ガレー船は帆船へと技術革新していく。そしてベネチア共和国もオスマン=トルコも破滅へむけて緩やかに衰亡していくので、いわば16世紀の主役たちによる最後の晴れ舞台ともいえなくはなさそうだ。主役には一応ベネチア共和国の40代のバルバリーゴ。小説としてもノンフィクションとしても今ひとつ感情移入しにくい構成ではあるのだけれど、ローマ帝国の「その後」とベネチア共和国の最後の「光」を垣間見るものとしては非常に面白い。巻末には地図の折込あり。

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