2012年1月3日火曜日

日本人ごっこ(文藝春秋)

著者:吉岡忍 出版社:文藝春秋 発行年:1989年 本体価格:420円
 1980年代のタイ。当時14歳のタイの少女が「自称日本人」として大学などに出入りし、大学生などから面倒をみてもらっているのが発覚。ただし被害とよばれるほどの被害はなく、少女は警察からも解放された。著者はとあるきっかけでその事件(?)を知り、行方不明の少女をタイで追う。「これがベトナムの少女」や「アメリカの少女」ではなく、なぜ「日本の」少女を詐称したのか?そしてその理由は跡をおう過程でじょじょにうきぼりになってくる。このルポが書かれてからすでに15年以上がすぎており、昨年の洪水によってタイの日本工場が稼働できないため、日本製品の製造にも大きな支障が生じるまでにもなった。また敬虔な仏教徒が多いタイであっても、都会の家族では老人介護もおざなりになっているという報道も一部ある。ルポの文庫本であるため地図などは付属していないが、著者独特の「象のような」国のかたちを想像しながら、この本を読むと、どういうルートで著者が取材を続けていったのかが頭の中に描けるようになっている。イキイキとした文章表現とルポの構成にひかれて、ちょっとページを読み始めると最後まで読みきってしまう。そして当時と現在とを比較しても、あまり根底の部分では大きな差異は生じていないとも実感する。

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