2012年1月16日月曜日

北朝鮮大脱出(新潮社)

著者:宮崎俊輔 出版社:新潮社 発行年:2000年 本体価格:505円
 風邪でゴホゴホ言いながらも、興味深さで一気に読み終わってしまった本。在日朝鮮人と父親と日本人の母親をもつ著者は、1950年代から1984年まで続いた「帰国事業」にともない、品川駅から新潟を経由して北朝鮮に「帰国」する。この間、約10万人の朝鮮人と約2000人の日本人妻が北朝鮮にわたるが、「地上の楽園」として宣伝されていた北朝鮮はスパイが跳梁跋扈し、物資も不足しているとんでもない社会だった。
 北朝鮮の「とんでもなさ」は、端的にいえば「物資が不足している社会」だが、物資が不足している結果として党本部や軍人などの「上位階級」による「ピンハネ」がある。さらに相互監視による「追い落とし」。組織生活と机上の空論による「計画栽培」で農業の生産力はどんどん落ち、しかも組織の上位者は結果責任を追わずに済む構図。で、意外にも統制の目からこぼれおちる存在というのもあるらしく、それはたとえば「乞食」などの存在が描写されている(著者の家族も「乞食」となる)。最終章は中国にわたってから日本に亡命するまでの一連の流れだが、ここらへんはまあ、立場によっても時代によってもいろいろな見解もでてくるだろう。が、興味深いのはやはり北朝鮮の労働の風景や農村の奇妙な統制社会と計画経済。そして「核心階層」「基本階層」とよばれる一種のエリート家系の存在だ。マルクスやレーニンが家庭を「階層」や「成分」に分けたことはないはずだが、東南アジア特有の儒教社会と西欧の共産主義が結びつくとこれほどまでに異形の社会が出来上がるのかと、やや怖い思いがする。

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