2012年1月10日火曜日

量刑相場(幻冬舎)

著者:森炎 出版社:幻冬舎 発行年:2011年 本体価格:780円
 最近、法律系新書としては、非常にユニークな新刊が相次いでいる幻冬舎の書籍。まえがきでは刑事裁判の判決の暗黙のルールが紹介されており、全国どこでも一定程度の量刑が要求されることを考慮すれば妥当な考え方を学ぶことができる。その後罪状に応じた「量刑相場」が紹介されていくが、第二部の「重大事件の量刑相場」が興味深い。いわゆる「衝動的殺人」の要件や標準的な量刑(懲役13年~14年)が紹介されているが、被害者に落ち度がある場合の殺人などと比較すると、一気に懲役年数があがる。またいわゆる「ゴウサツ」(強盗殺人事件)となるとさらに「量刑相場」があがり、刑法では死刑または無期懲役しかない。酌量減刑で多少懲役15年などに軽減されることもあるようだが、前橋地裁平成10年の判決では、「万引き」が発覚し、警察官に道をふさがれた18歳の少年が警察官を刺した事件では、懲役25年となっている。「万引き」が発覚したら逃げたり、さらには店員さんに傷などを負わせたら、「強盗殺人」ってことになってしまい、18歳で刑に服すると出てくるのは43歳前後。人生が終了する。強盗殺人でも前科なしで死刑判決となったのは数えるしかないというが、意外に軽犯罪と抱き合わせで強盗殺人になってしまうケースは今後も起こりうる。オヤジがりなどの強盗致傷では懲役7年程度。前科がない少年たちによるおやじがりで、逮捕された21歳の若者が懲役7年の判決をくらっている(神戸地裁)。実際の事件の例などもあり非常に興味深い事例がてんこもりだが、巻末で著者も断っているように現在は厳罰化の傾向が著しい。裁判員の「市民感覚」が導入された結果、当初の予定とはうらはらに死刑を含む重い刑罰が言い渡されるようになったのは、これまた興味深い現象だ。ただ法令遵守の時代を迎え、軽犯罪といえども重い刑罰が法律の枠内で言い渡されるようになったのは、ある意味当然の結果かもしれない。今後の改訂版なども含め、統計資料としても有用になるであろう新書だ。

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