2010年11月24日水曜日

クラッシュ(角川書店)

著者:楡周平 出版社:角川書店 発行年:2009年(角川書店文庫版)本体価格:895円(角川書店文庫版)
フランクフルト空港で新型航空機が着地を誤って事故。飛行プログラムを組んだソフトウェア会社はプログラムのバグを取り除いて新たなバージョンを開発。しかし人間関係のもつれから、バージョンアップされたはずのプログラムには「エボラ」と命名されたウイルスが混入していた…。時代がドッグイヤーとよばれる変化のなかで、世界をシステムダウンさせるほどの威力があるウイルスがフロッピーディスク1枚におさめられ、飛行機のプログラムにもインストールされるといった展開はまあご愛嬌。もはやウイルスセキュリティも新型ウイルスに負けないほど進化したし、1998年当時であっても、なんのチェックもしないでソフトウェアをインストールするようなことはなかったと思う。にもかかわらずこの小説はなかなか読ませる。飛行機パニックストーリーは「出口がない」「登場人物が限定されている」といった密室ミステリーにも似た部分があるうえ、燃料によるタイムリミットもある。どんなに長いミステリーであってもなんらかの解決策を作家は提示しなくてはならない。もちろんこの本も最後はちゃんとしたオチにたどりつくわけだが、今でもなおこのストーリーはデバイスとネット環境をアップデートすると成立する核がある。「未来を予測した…」というような賛辞よりも、デバイスやソフトウェアのバージョンにかかわりなく、「クラッシュ」はいつでもいかなる状況でも想定外の条件で発生しうる…というのが「核」か。

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