2010年11月20日土曜日

勝者の混迷(上巻)(第6巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2002年(文庫版) 本体価格:400円(文庫版)
ポエニ戦争が終わり、マケドニア、アカイア同盟を滅亡させ、カッパドキアやアルメニアといった小アジア諸国を同盟国とし、さらにエジプト王国も同盟としたローマ帝国はまさに地中海を制覇した。しかしローマ帝国内部には、元老院に対する権力の集中と貧富の格差が生じていた。ローマ帝国では一定程度の財産がなければ兵役には召集されない。兵役は直接税としての役割をはたしていたが、戦地からもどってきてみると一種の上層部が大規模農園を経営し、小規模農家の実家は経済的な困窮状態に陥っていた。その結果、自作農家は壊滅し、農業で生計をたてることができなくなった元兵士などは都市へ流入する。そこへ若き改革者グラックス兄弟が登場する。兄のティベリウスは一種の農地改革法を施行し、元自作農に土地を返却、それによってローマの市民層を健全化しようとしたが、30歳にして撲殺される…。そして弟のガイウスも護民官に就任し、新植民地建設とラテン市民権とローマ市民権との格差を埋めようとするが自殺に追い込まれる。その10年後新たにガイウス・マリウスが歴史に登場する。アフリカ戦線に職業軍人として赴きながら軍団内部の改革に専念するマリウスだったが、心ならずもその軍団改革は職業軍人を誕生させ、兵役を納税とするシステムを変換、さらにアフリカ戦線で外交能力が必要となった場面でスッラが登場する。マリウスがその後ゲルマン民族との戦いを終了したのち「失脚」したころ、その妻の実家ユリウス家にカエサルが誕生する…。そして市民権格差が解決されないことにいらだった同盟諸国から「同盟者戦役」が勃発。この結果ユリウス法が制定されローマ市民権が等しく与えられ、都市国家ローマが帝国ローマとして生まれ変わる契機につながる。
必ずしもこれまで歩んできた勝利の歴史というよりは、一つ一つが試行錯誤の連続といった感じの時代のローマが描写されている。グラックス兄弟の考えは正しかったが、それが実現化されるまでには元老院をはじめとする各種の抵抗を乗り越え、同盟者戦役をへる必要性があった。正しいと思われることが必ずしもスムースには実施されず、幾人かの犠牲と戦争をへてやっとたどりつける道筋も歴史にはあるということだ。

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