2010年11月24日水曜日

ユリウス・カエサル 上巻(第8巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2002年(文庫版) 本体価格:400円(文庫版)
話の流れは再びスッラの元老院重視の政治とマリウスの民衆重視の対立の時代にいったん戻る。カエサルの誕生から歴史を語るには、どうしてもローマ全体の歴史を一度逆戻りする必要があるからだ。スッラが独裁官に就任したときにはカエサル自身が処刑名簿に名前が記載されていたということもあるが、民衆派のマリウスも叔父にあたるためである。また著者自身がカエサルの全体像をイメージするには、生まれたときから全体をとおしてみていく必要性があることを書籍のなかで著述している。借金だらけで、しかも女たらしだったが、借金で公共事業をおこなうとともに、女性遍歴は多いものの恨まれることはなかったというカエサル。37歳にしてようやく英雄の片鱗をみせはじめるのだが、アレキサンダー大王や当時の英雄ポンペイウスなどと比較してもかなり遅咲きの英雄だ。しかも「英雄」にしては、お金や女性問題など世間的にいう「英雄」のイメージとはややかけはなれているカエサル。この人物はロードス島への留学をはじめ当時の最高水準の教育を受けていたのは間違いないが、だとしてもその後、ローマ帝国を一気にぎゅうじるほどの才能はまだこの上巻では著述されていない。指導力もカリスマ性もおそらくその後花開いたのではないかと想像するが、「いかに俗物だったか」「俗物ではあったが英雄でもあった」という二律背反の業績を歴史に残す。後にライバルとなる小カトーやキケロのデビューもこの上巻で詳細に知ることができるほか、トーガの着方や、ローマ市内の一戸建ての住居内地図なども掲載されている。

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