2010年11月23日火曜日

勝者の混迷 下巻(第7巻)(新潮社)

著者:塩野七生 出版社:新潮社 発行年:2002年(文庫版) 本体価格:400円(文庫版)
上巻につづき前1世紀のローマ帝国。同盟者戦役に続いて、ミトリダテス戦役、さらに映画化もされた「スパルタカスの反乱」も国内で発生する。元老院の権威と権力を守りたいスッラは次々と体制改革をおこない、平民の権利を守る護民官も巧みな制度改正で優秀な人材が選挙に出ないような仕組みを考え出す。そしてスッラが独裁官から自ら引退したその後、ポンペイウスが影響力を生み出していく。ローマはそして、シリアにも踏み込み、戦闘なくしてセレウコス王朝が滅ぶ。かくして巻末に掲載された地図は上巻からさらに上書きされ、スペイン、ミラノ、イリリア地方、マケドニア、アカイア同盟、ロードス島、ビティニア地方、キリキア地方、シリア地方を属州におさめ、ポントス、アルメニア、カッパドキア、エジプトマウリタニア王国を同盟国へ、そしてヌミディア王国とは引き続き密接な同盟国関係を維持。かくして下巻でシーザーはちらっと顔をだし、地図の白い部分(ガリア地方とトラキア地方)を除く地中海沿岸をすべて支配下・影響下においた「勝者」が混迷の後、さらに拡大していく予感を示して終わる。イタリア半島・ギリシア半島・小アジアの3つはそれぞれ地中海にタテにはみだした形をしているが、陸路だけでなく地中海を中心にしてみると、海2つを越えればローマから小アジアへすぐだと気づく。また地中海貿易を円滑にすすめるためには当時空白地区だったキリキア地方の海賊も平定しなければならないこともすぐわかる。地図が利用にたえうる技術になったのはルネサンスのころと記憶しているが、当時のローマ帝国も不完全ながらも地中海を中心にした独自の地図で、要所要所を落としていくという「知恵の継承」がおそらくなされていたのであろう。

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