2010年11月9日火曜日

異端の大義 下巻(新潮社)

著者:楡周平 出版社:新潮社 発行年:2009年 本体価格:667円
この本を読んでいるとさまざまな実在の企業が念頭をよぎる。サンヨー、アイワ、フィリップス、NEC…といった感じになるが、国内の生産拠点の閉鎖に従事する主人公はとあることから、人事担当の役員ににらまれなれない販売子会社へ出向、さらには外資系企業に突破口を見出すが、その後運命は皮肉な展開をみせる…。おそらく10年前の日本であれば「そんなばかな話」と一笑に付されそうな話だが2010年現在の日本では、頻繁にとはいわないまでも、それなりにありうる話だろうと思う。海外でMBAを取得し、さらには語学も堪能なこの主人公であれば、年齢にかかわりなく日本市場や中国市場にターゲットをしぼる外資系がスカウトされるなんてことは十分ありうる。さらには、 国内企業が経営不振となれば、外資系が株式を購入するケースも当然想定される。日興コーディアルや日産という会社は一例に過ぎないし、中小企業であっても外資系が入り込んでくる例も散見される。この本ではインフラに疑念をもつ中国人の社員と将来の中国の発展を予測する中国人の見方の対立が面白い。おそらくは今の中国の経済発展は共産主義の限界でいずれは衰退をむかえるとは思うが…。「異端」とは同族会社に紛れ込んだ外国文化に慣れ親しむ主人公が、同族会社のなかでいつしか人情味あふれる「日本人」へと変貌していくが、それは気がつくと会社の中では「異端」になっていた…という展開を暗示している。成功物語というよりもリストラ・工場閉鎖物語という必ずしも明るい話題ではないが、逆境にあっても活路を見出したい人にはヒントがあふれているはず。

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