2010年11月8日月曜日

ラスト・ワン・マイル(新潮社)

著者:楡周平 出版社:新潮社 発行年:2009年(文庫版) 本体価格:629円(文庫版)
単行本の発行は2006年。まだライブドアによるフジテレビ買収活動も楽天によるTBSへの買収活動も起きていない時代に、楡周平は、架空のインターネットモールが小口運送中心の運輸会社に値引き交渉をもちかけるシーンから描写していく。ネットの売買取引も最終的には実際の物流活動によって完遂される。タイトルはその売買活動の最後のリアルな活動という意味で「ラスト・ワン・マイル」となっている。経済小説ではあるが、流通や物流に興味がある読者にとっては、流通論のテキストを読むよりも現実の世界に応用できる内容が盛り込まれているほか、サーバーの維持や出店した顧客の管理などマーケティングの勉強にもつながる著述が多い。おそらく経済小説の場合、時代があまりに変化すると小説としてのエンターテイメント性が失われやすいというデメリットがあるが、著者はそうした陳腐化を避けたかったのではないか…と推察する。「一見ネガティブな情報のように見えても、その裏に隠された真実を掴んだ人間が金を手にできる」(文庫本266ページ)。ビジネス戦争の過酷な競争と人間心理、緻密なプロットが、層をなし、まるでティラミスのように、人間模様と企業のからみあいを描写している見事な経済小説。

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