2011年9月24日土曜日

「おじさん」的思考(角川書店)

著者:内田樹 出版社:角川書店 発行年:2011年 本体価格:552円 評価:☆☆☆☆☆
イデオロギーでがっちがちに固まった人とか、原理原則でルールどおりにコトが運ばないとイラツク人って実は非常に固苦しい。「原理あってこその社会」と主張する方もいらっしゃるのだが、「例外あっての原理では」という反論にはあまり耳をかたむけていただけない。思想界でもそういう人が多数派で「私は…と思う。ゆえに…である」といった断定調が多い中、内田樹の主張はきわめて穏当でしかも柔軟。「おじさん」というか「おとな」というか、ある程度マルキシズムやらナショナリズムやらの固さをまのあたりにしてきた分だけ許容範囲が広いと思う。で、許容範囲もしくは視野角が広い人のエッセイというのは読んでいて楽しい。確実性は確かに大事だが「偶然」もまた大事(92ページ)で、「お先にどうぞ」が倫理の真骨頂(94ページ)など日常生活もしくはこれまでの自分自身の人生経験からも「なるほどね」と首肯しうる内容。上から目線で難解なことをいわれるよりも、横から目線で酒をくみかわしながら「倫理ってこういうことでしょ」という会話ができるような気がする。あ、もちろん「お先にどうぞ」というのは、女性が通るのでドアをあらかじめ開けるとかそうしたレベルのエセエシックスのことではなくて、この船に乗らないと死んでしまう…という「タイタニック」のディカプリオのような状態にあるときに、「お先にどうぞ」の精神で大西洋の底に沈んでいけるかどうか…というレベルの話。イデオロギーの時代を柔軟にかけぬけることに成功した「おじさん」の叡智がつまっているエッセイ集。

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