2011年9月19日月曜日

銀行狐(講談社)

著者:池井戸潤 出版社:講談社 発行年:2004年 本体価格:533円
池井戸潤の作品を初めて読んだのは「鉄の骨」。そのころはまさか直木賞を受賞したり、あるいは銀行出身の作家などとは想像もしていなかったが、この短編集、銀行員出身ならではのノウハウが詰め込まれている。普通預金の出金状態から、口座の所有者のライフスタイルを読み込んでしまうあたりなどはなかなか。江戸川乱歩賞受賞作家らしく舞台が金融機関で、事件が発生という展開が多いのだが、最後の「ローンカウンター」という短編には凄みまで漂う。現金が合わない、振込先の口座を間違える…普通の会社ならば、まあ「間違い」ですみそうなことが、大きな事故に発展していく銀行。バブルの時代とは違って、不良債権の回収や信用金庫の吸収合併など話題もいささか暗い影がさすのも時代のせいか。ログライン(一言で言い表す物語の要約)があるとすれば、「銀行を舞台にした謎の解明」、か。ただし、複数人登場する謎解き探偵はいずれもお金を持ってもいないし、お金に執着もない。著者が銀行員で、現在ではお金を扱わずに「文字」を扱う職業であることと、無関係ではないように思う。

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