2011年9月5日月曜日

消失 下巻(角川書店)

著者:高杉良 出版社:角川書店 発行年:2010年 本体価格:857円
金融庁の検査忌避で刑事立件され、監査法人によって繰延税金資産の計上が認められてなくなったJFG銀行。主人公は金融庁と険悪な関係にあったグループ親会社の社長をともに辞任。ロンドンに次の人生をもとめる…。実在の金融機関をモデルに進行してきた「消失」。論調は市場原理主義をかざす「首相」「金融担当大臣」に厳しい。ただし、かつてのUFJ銀行がかなり強引な営業姿勢をとり、さらに不良債権を抱え込んでいたことには間違いない。吸収合併をされるに到るわけだが、その道筋は必ずしも金融庁の恣意的な裁量によるものとは断定できない部分がある。小説では主人公をはじめとする執行役員や相談役が暗闘しているのだが、その暗闘にむけるエネルギーを別の方向へ振り分けていたならば、業務純益があれほど悪化することもなかっただろう。国際業務やM&A業務などの収益性の高いビジネスモデルについても遅れをとっていたことについては、作家はあまり言及していない。かくして金融腐食列島シリーズは完結するのだが、タイトルがいみじくも象徴しているように、第一シリーズからきわめてドメスティックなビジネスモデルと裏社会とのつながりが「腐食」をまねいた部分がある。最終的には「消失」してしまうこの架空の銀行だが、メンツや根回しを重んじる気風こそが、「腐食」をまねいてしまった。90年代から2004年ごろまでの金融機関はそれ以前の「しがらみ」でどうにも動きがとれなくなってしまったが、2011年現在の金融機関は先が読めない国際金融の世界を前にして次の手を考えあぐねているようにもみえる。安定した融資中心の業務から、不確実性を抱えつつも大規模なシンジケートローンの世界へ。時代の変わり目は2011年以後ということになりそうだ。

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