2011年9月11日日曜日

よろずのことに気をつけよ(講談社)

著者:川瀬七緒 出版社:講談社 発行年:2011年 本体価格:1500円
ミステリーの単行本はなぜか定価が低い。あらかじめ販売部数が多めに見積もられているせいかもしれないが、これが専門書だともう10パーセントか20パーセントもしくはそれ以上の定価になるはず。この本は第57回江戸川乱歩賞受賞作。主人公は中野の中古一軒家に住む文化人類学専攻の中年男性で大学非常勤講師、コンビを組むのは18歳の女子大生。中野に住んでいる…という設定がまず興味をひき、それから福島県白河市へと舞台が移る。プロップの「昔話の形態学」はロシア昔話をいくつかの類型に分類したが、この小説では見事に、主人公は「呪具」を贈与され、傷をおい、そして「帰還」してくるという構図にはまる。もちろん神話の構図にはまっているのだから面白いに決まっている。題材はどろどろした日本古代の呪術なのだが、構図はきわめて西洋の文芸評論家や文化人類学者が指摘した構図に忠実だ。主人公と女子大生はあるホテルで一室をともにするが、その後の描写はない。だが神話の構図でいけば、この大学講師と女子大生はおそらく物語の中では「近親者」になるはず。したがって描写されていない部分でも、キスもなにも発生していなかったであろう…ということは想像がつく。もちろん物語の設定としては赤の他人なのだが、この人物設定だとこの2人が恋愛関係におちいっちゃまずい…という判断が作者のなかにもあっただろう。やや薀蓄めいたセリフが多いミステリーではあるが、深読みがいくらでもできるミステリーという意味でも興味深い。

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