2011年9月13日火曜日

東電帝国 その失敗の本質(文藝春秋)

著者:志村嘉一郎 出版社:文藝春秋 発行年:2011年 本体価格:760円
電力など産業系の大会社の取材暦が長い元朝日新聞記者が現在と過去を踏まえて東京電力の未来を語る。なかなか聞けないエピソードや取材のネタなども掲載されており興味深い。朝日新聞や毎日新聞などが原発について「賛成、しかし…」といった立場に変化していったきっかけやその広告収入などについても著述されている。電力記者クラブに赴任してきたときに著者の大学時代に所属していた「応援部」についてもすでに東京電力のM社長が把握していたというエピソードも記載されている〈63ページ)。2009年に北京に視察旅行にいった現K会長と同席したなかには大手マスコミのOBがずらり。これじゃあ、3月の最初の記者会見で各社の記者も及び腰なわけだ。また東京電力と政治献金をめぐる部分についても、考察が加えられている。著者自身も電気関係の何某研究所の「顧問」とつとめていたとのことで、ある意味では「電気村」の一員という見方もできるが、にもかかわらずこうした「生臭い内容」の新書が発刊できるというのは、さすがの朝日新聞。地域独占などについても著者は悲観的な予想をしているが、さてそれはどうか。東北の地方公共団体をぼこぼこに破壊しつくした東京電力だが、普通の会社だったらもう倒壊している。ある意味、とんでもない債務をせおって、さらには東北の人たちの視線をせおって仕事にいそしまなければならないが、そこまで深刻にかんがえているフシも感覚としては実は見えない。あまりに巨大すぎて、さらには地域独占による売上高が安定していて、かえって当事者でも現実がみれない状況にあるのではないか。政治家もまた同じだが、地域独占や送電と発電の分離などは、もてる政治力と資金力を傾注して阻止にあたるであろう東京電力。安くて良質な電気を供給できる複数の電気事業者こそが、おそらく21世紀のエネルギーのあり方だとは思うが、そこに到るまでには、まだ「痛み」をいくつか経験しないとわからんのかな、とかえって逆にショボンとしてしまう…。

0 件のコメント: