2010年1月11日月曜日

日本辺境論(新潮社)

著者:内田樹 出版社:新潮社 発行年:2009年 本体価格:740円 評価:☆☆☆☆☆
 地理的・文化的に中国が中華思想で日本はその「周辺」に生きてきた(この場合、日本という主語でいいのかどうかも実は問題になるのだが)。その辺境という立場でどういう文化や政治構造が作り上げられ、また「日本」に住む人間がいかにそれをたくみに利用し、改変していったのかを分析。ホンネとタテマエなど二重構図は今でもあちこちに散見することができるが、そうした文化や自己内部での二重構造を解き明かしてくれる。「まえがき」では「これまでも先輩たちが研究してきた結果をなぞってきただけで…」といいながら、「あとがき」では「これこれについてさらに具体的な研究を…」というホンネが見え隠れするのは、著者と編集者による意図的な「二重構造」の創出だろう。
 第二次世界大戦後の東京裁判の分析においても、ルース・ベネディクトの分析においてもこの二重構造が明白にされていく(いい悪いといった価値判断はもちろん研究者として避けているのは当然として)。で、書籍の中身もそうした研究結果を見事に反映し、単行本でもなく文庫本でもなく新書という形で、しかも著者自身が「あいまい」とする定義にそった形での刊行。ここまでしくんで新書を発刊するあたりがやはり心憎い。「目的地」や「下絵」「リスト」といった概念を意識のなかからとばして日本文化論にするのであればやはりこうした形での出版が一番「理想像」であり「道」にかなった方法なのだと読み終わって納得。

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