2010年1月6日水曜日

無理(文藝春秋)

著者:奥田英朗 出版社:文藝春秋 発行年:2009年 本体価格:1,900円
 市町村合併をすませたばかりの架空の地方都市「ゆめの」。この新生地方都市を舞台にした「鬱屈した人間たち」のドラマが錯綜して最後にある「事故」で結実する。地方都市の問題点をこの作品に凝縮したという感がする。よくまあこれだけ性別や年齢の異なる人間の心情をリアルに描写したものだと思うくらい細かく描写してあり、ミステリーというよりも「人間喜劇」に近い内容。「無理」を全員が重ねていくのだが、根底に流れる「貧困」というテーマと「貧困の上のさまざまな不幸」がからみあい、悲劇なのに喜劇に近い終わりとなる。設定そのものが「無理」なのだがいかにもこういう地方都市がありそう…と思わせるのがこの奥田英朗の腕前だろう。生活のだらしなさや社会性のなさの描写もかなりえぐいのだが、実際、こういうえぐい生き方をしている人、現実にもいそうだしなあ…。新興宗教にはまるスーパーの保安員の女性の生き様が個人的には一番救いがなかったが、考えてみると登場人物のほとんど全員の「その後」ってかなりつらいものばかり。こういう救いのない小説、デフレ不況の今だからこそ、もっと売れるような気がする。

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