2007年9月30日日曜日

「新中流」の時代~ポスト階層分化社会を探る~

著者名;和田秀樹 発行年(西暦);2006 出版社;中央公論新社
 「一人の天才がいても総合力には勝てない」。テーマはこれに尽きるのだろう。ビル・ゲイツが一人いる組織よりも平凡な人間が結束した組織のほうが強かったりする。新中流階層をいかにして厚くしていくか、という方策とその効果を探った本。機会の平等はこれからますます増していくが、その分、生まれた家庭の所得や資産で階層が固定化し、ひいては社会が固定化してしまうというのを筆者はうれえているようだ。
 実際のところ家計の「固定費」はこれからさらに増す。まず所得税の定率減税は2007年から廃止。さらに所得税から住民税へ税源移譲が行われ、住民税の税率は10パーセントへ上昇。厚生年金保険料や健康保険料も軒並み上昇するが、健康保険料の標準報酬の上限は98万円から121万円にアップ。こうした固定費がかさめばかさむほど実は、可処分所得は減少していくため、消費構造としては、可処分所得が多い家計ほど消費量は多くなるが多くの家計にとっては、消費の減少要因となる。将来が不鮮明な場合には消費や投資は抑制するのが普通だろう。したがって、今後、大きな消費支出をともなう行動は普通の家計はとらなくなるはず。となるとやはり景気は一定レベルで抑制されることになる。
 大規模支出を控えるということは住宅消費支出も抑制されるだろう…ということに当然なる。公共投資や住宅開発が昔ほど景気に与える影響度が低くなったのは、ひとえに「購買層」が限定されてきたことによると思う。
 アメリカ型の市場主義が妙な形で定着した場合のことを想定すると、一握りの高い所得層の消費によってのみ支えられるいびつな日本社会の出現ということもあながちうがった見方ではないだろう。階層社会か中流社会か。2007年が分岐点になるのだとすれば、セーフティネットや税制の問題など「再チャレンジ」にふさわしいインフラがなされなければならないのだ、とこの本を読んで思う。

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