2011年11月23日水曜日

新しい世界史へ(岩波書店)

著者:羽田 正 出版社:岩波書店 発行年:2011年 本体価格:760円
 歴史学が最近未来への希望を語る力を持たないという、やや自虐的な著述から始まり、「ヨーロッパ」というモデルにとらわれすぎた歴史観で世界史の検定教科書が著述されている現状では、地球全体を包括できるような世界史にはなりえないと説く。地球社会全体を俯瞰するような歴史像がうちたてられれば、確かに21世紀以降の地球市民の歴史はうちたてることができるが…。15ページで指摘されていることだが、今の日本の「歴史」はかなり学習指導要領の著述に左右されているのではないかという指摘が個人的には興味深かった。確かに世界史という科目は現在(2011年)では高等学校の必修科目であるとともに、それ以前の学習指導要領でも「現代社会」とともになにがしかの授業時間はあてられていた。中学校の「歴史」がほとんど日本史であるのと対照的だが、これは大学の教養学部で法律や経済の歴史を学ぶうえでフランス革命や封建制度がなんたるかもしらない大学生が一時期急増したせいもある。その後、50ページまで検定不合格となった「教科書」の内容も含めて学習指導要領が検討されるが、確かになにがしかの歴史にふれるさいに、学習指導要領の枠組みにそって世界史の事件を位置づけていることは多い。しかしさらに第2章(90ページ)までに解き明かされることだが、ヨーロッパ中心の歴史であると同時に、現在の世界史はあくまで日本人にとっての世界史であって、他国の人々とはやはり共有しえない歴史であることも説明され、第4章で著者がうちたてようとしている新しい世界史が紹介される。
 稀有壮大なモデルであると思うと同時に、これまでの世界史は確かに「地理的分析」「ヨーロッパ」「差異分析」に偏っていたのも事実だが、一種のモデルとして理解すれば、それはそれで不都合はなかったのではないかとも思う。地球はすべてアナログに一つの球体で連続しているが、それをいきなりボンと目の前に提出されても大方の人間は途方にくれる。便宜的にある地域に限定し、その後、「他の境界」についてさらにアナログに分析をつめていくという手法は、機械的にすぎるのかもしれないが、それはそれで学習の便宜は図られていたように思う。ただいつまでも、そうしたモデルに依拠するのではなく、さらに包括的なモデルをうちたてていこうという著者の意気込みが、この本に現われたのだと思う。
 

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