2010年6月13日日曜日

導入前に知っておくべきIFRSと包括利益の考え方(日本実業出版社)

著者:高田橋 範充 出版社:日本実業出版社 発行年:2010年
本体価格:1,700円 評価:☆☆☆☆☆
 活字が大きいわりには値段がやや高いが、内容は英国会計基準と米国会計基準の違い、複式簿記重視のFASBと将来の予測情報提供重視のIFRSの違い。そしてアメリカSECがIFRSのアドプションをおこなう場合にはかぎりなくFASBに近い内容になる可能性などが述べられている。当期純利益を重視するアメリカ、日本と、そうでもないIFRSとの違いはやはり大きく、また規則主義と原則主義の違いは訴訟における証拠能力の違いを生み出す。IFRS自体が変化していくのでIFRSに完全に適応する会計基準や細かい論点や会計処理の違いについて考えるのはあまり得策ではないという指摘が有用。少なくとも、「考え方」をある程度理解したあとに、大きな論点を理解しておくというスタンスが一番よいようだ。複式簿記にかわるツールとしてIFRSが想定しているのはXBRLのようだが、かといって中小企業レベルで、あるいは大企業であっても内部管理の面で複式簿記が消滅することはないだろう。あくまでここで議論されている会計基準は、国際資本市場を利用する可能性がある規模の企業を前提としている。個人商店でXBRLを利用することは想定されていないので、日本の株式会社の全部がいきなりIFRSに切り替わるというようなニュアンスではない。歴史的な沿革やIFRSの影響を与えたASOBATの質的特性の解説など、会計学のテキストだけでは知ることができない流れを理解できる。やや割高なのは差し引いて、さらに日商簿記1級を取得していない読者には難しい話もあることもさておいて、一読する価値はあり。「公正価値会計」の弱点は「固定資産」にあり、という鋭い指摘にも納得。

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