2010年6月5日土曜日

警官の血 上巻・下巻(新潮社)

著者:佐々木譲 出版社:新潮社 発行年:2010年 本体価格:629円 評価:☆☆☆☆☆
 戦後昭和28年から平成の時代まで親子3代の警官人生を、谷中の天王寺駐在所を舞台に描写。警察小説の最高峰といわれるのは伊達ではなく、戦後民主警察が軌道に乗り始めてから、左翼運動との対峙、地域住民の生活の保護、そして組織暴力対策と3つの時代それぞれの警察官の「生活」が描かれ、その底辺には戦後未解決のまま時効を迎えた2つの殺人事件がある。
 警察学校を卒業してから北海道大学に入学し、学生運動の「エス」として働き始める2代目の姿や、自ら情報を切り売りして組織暴力団と渡り合う3代目の姿が痛々しい。「インファナル・アフェア」「フェイク」などで描かれた二重生活だが、そのそれぞれの時代にそれぞれの警官が心のバランスを失っていく。最後になりひびくホイッスルは「誇り」「矜持」といった意味合いか。ノンキャリアと「駐在」にこだわり続けた親子3代だが、その背後にある「うしろめたさ」「秘密」といった暗いトーンがやるせない。

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