2010年6月12日土曜日

野村の「監督ミーティング」(日本文芸社)

著者:橋上秀樹 出版社:日本文芸社 発行年:2010年 本体価格:743円
 著者の橋上秀樹氏はヤクルト時代には、内野も外野も守れて左打者に強いバッターという印象の名バイプレイヤー。その後日本ハムに移籍したが、日本シリーズで守備固めで外野に入り、その後堅実に外野フライを捕球したシーンが個人的には印象深い。まさか阪神タイガースに移籍して、それから楽天ゴールデンイーグルスでヘッドコーチを務めることになるとは想像していなかった。ID野球の申し子はたくさんいると思うが(たとえば現横浜監督の尾花高男など)、そのなかでも橋上秀樹氏に託されたのにはそれなりの意味合いがあったに違いない。おそらくそれは、性格的なものではないかと想像するのだが…。池山選手も楽天では打撃コーチを務めていたが、ブンブン丸といわれた池山がコーチに就任するとは当時は想像もしていなかった。「考えても損はしないだろ」という実利的な考え方は、1970年代~90年代の野球選手にとってもビジネスパーソンにとっても画期的な発想だったと思う。いや、「熱血」も大事なことだが、その前にそれが「正しい方向の熱血」なのかどうかというチェックは大事なことではないかと思うのだ。そうした「舞台裏」がこの本で明らかになり、ピッチングの分業体制を築いた野村監督が、指導者の役割分担という面でも分業体制を築き上げていったプロセスが判明する。財産や名誉を残すよりも「人を残す」という最大の仕事を成し遂げたひとつの成果でもあるだろう。実際に、荒木大輔氏はヤクルトのピッチングコーチ、伊勢孝雄氏は古巣ヤクルトの打撃コーチ、尾花氏は横浜監督など野村ID野球は日本シリーズの優勝以上に継続的に人材を輩出している。こうした「人の財産」は将来にわたり日本野球界に発展をもたらすことだろう。個人的には野村克也監督が重視したという「超2流選手」という概念が興味深い。人間だれしも「一流」を夢見るが99パーセントは残念ながら自分自身の凡庸さに気がつく。その凡庸さをいかに「超二流」としてたたき上げていくのかが、諦めるかさらに努力を続けるのかの境目のような気がする。「超二流」の人間として学ぶべき点は、「自分自身の凡庸さに気がつく」→「その特性を活用して伸ばしていく」という自己発見と自己開発の2段階プロセス。「自己開発」については種々のハウツーが出版されているが、「自分自身に気がつく」という作業、なかなか人に教えられて学べるものではない。この本はそうした「自分の凡庸さ」に気がつくスキルを教えてくれている。

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