2012年9月19日水曜日

「通貨と為替」がわかる特別講義(PHP研究所)

著者:伊藤元重+伊藤元重研究室 出版社:PHP研究所 発行年:2012年 本体価格:1500円
 伊藤元重先生の大学のゼミ生がイラストやデータを集め、伊藤先生が原稿執筆という共同作品だが、「わかりやすく」「正しく」という両立しがたい命題を見事に克服。かなり慎重ないいまわしがところどころにみえ、断言はしないが可能性は高いというニュアンスと「ここは断言できる」という文章の差異が役に立つ。通貨相互の競争というハイエクの議論を4ページで解説したり、固定相場制と変動相場制のトリレンマの命題にからめて中国の「元」の切り上げを論じたりとトピック相互が体系的に関連づけられているのも魅力。国際経済学のテキストはミクロ経済学の学習のあとに勉強するわけだが、ともすればグラフと数式でお腹いっぱいということが少なくないが、大雑把に通貨と為替のイメージをつかむには良いテキストだ。
 ただ為替関係の本を読んでいつも思うのだが「予測はあたらない」という命題は「断言できる命題」のようだ。となると為替トレーダーというのは、情報を少しでも早く入手して一般投資家が追いつくころには売り抜けるという情報の非対称を利用して利ざやを稼いでいるだけで、数式やら予測やらで利益を稼いでいるわけではなそうだ、ということ。となると、マスコミの情報に限定されている一般投資家が為替で儲けるというのはバクチに近い。ましてや通貨先物であるFXなどはもう「現金の投げ捨て」に近いのではなかろうか、ということだ。物価上昇率や金利と為替との因果関係は強いといえるが、貿易黒字だから円高という議論は成立しない、などFVやら外貨建預金にまどわされない智恵がつまっている。

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