2012年9月9日日曜日

印刷に恋して(晶文社)

著者:松田哲夫 出版社:晶文社 発行年:2002年 本体価格:2600円
 今から10年前に発行された本なのにしっかり書店でも入手できる本というのが嬉しい。イラストレーションは内澤旬子さんで、表紙の1ページ目と4ページ目にそれぞれカットが流用されている。黒と緑の2色のイラストだがすべての作品が労作で、本文を読むのと同じぐらいイラストを眺めていても楽しい。10年前の本ということで、活版や電算植字機をめぐる状況は激変し、すでに印刷用のフィルムは在庫のみで、シャケンとよばれていた電算植字の大手の機械を入れる組版所さんも激減した。製版しないで一気に「刷版」までもっていくDTPとよばれる印刷方式は、環境にも優しいということもあり、導入がこの本の時点からみてもかなり進んでいる。
 とはいえ、それではこの本は時代遅れか、というとそうではない。まず活版と電算植字の「非連続性」が指摘されているが、これは電算写植とDTPの「間」にも言えることだ。電算写植が発達してDTPになった…とは単純にはいえず、印刷技術の進歩をめぐるこうした「段差」の現象は興味深い。この考え方を延長していくと、次の進歩はDTPには似ているけれど、そうでない技術というのが出てくる可能性がある(DTPの延長戦で、デジタルデータをそのまま印刷にまわしてしまうというレベルのことではなく、もっと違う次元の進歩)。
 著者は筑摩書房の専務取締役で、出版社は今も秋葉原駅そばのビルで頑張っている晶文社さんという組み合わせも心地よい。アナログではあるけれど、デジタルの今後も見据えている内容というのが、長く愛読されている理由か。自分自身の業務にも役立つ部分が「大」。

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