2012年9月9日日曜日

モンゴル帝国の興亡 下巻(講談社)

著者:杉山正明 出版社:講談社 発行年:1996年 本体価格:740円
 「世界経営の時代」という副題があり、いわゆる「世界史」の授業ではほとんど触れられない大陸と海を含めた巨大帝国の運用方法についておもに説明がなされる。ローマ帝国もまた巨大帝国の運営として宗教については寛容で、人種的な区別もほとんどなく(皇帝にアフリカ系ローマ人がついた例もある)、さまざまな人種と文化を包摂していたが、モンゴル帝国もまたカーン(ハン)のもとに、ウルス(氏族)ごとに地域を分割して戦争や軍事以外については寛容(または興味をもたないまま)陸と海を支配していく。ローマ帝国の滅亡はローマ的な特徴を失ったゆえの結末だが、モンゴル帝国の場合にもまたカーンの統率力が失われていった結果ともいえる。派生的な問題としては塩や商税の専売が機能しなくなったことや天災、内部抗争、疫病といった要因がありそうだが、おおもとはカーンへの社会的信頼性が失われたことのように読み取れる(さらにそのカーンの信頼性が失墜したのは「暗愚の帝王」イスン・テムルの存在があるが、そうした暗愚の帝王を生み出す要因はまたモンゴルがモンゴルたりえた事柄が失われていった結果と読み取れる)。
 興亡の歴史のなかでは、やはり滅亡の様子が非常に興味深い。ローマと同様に明確な形でモンゴル帝国が滅んだというよりもフェイドアウトに近い形で消滅し、ロシア帝国などにその影響を刻むようになった…というのは、人間と人間が文化を受け渡すものである以上、実に自然な説明だと思う。

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