2012年9月2日日曜日

モンゴル帝国の興亡 上巻(日本経済新聞出版社)

著者:杉山正明 出版社:講談社 発行年:1996年 本体価格:720円
 「元」という国は日本でいえばだいたい鎌倉時代で教科書では「元寇」がおもに取り上げられている。あとフビライ・ハンなどの写真で「元」という国が突如南宋を滅ぼして中国全土を統一したかの「印象」を受けていたが、この本を読むとそうした理解がまったく表面的だったことがわかる。
 13世紀はじめにモンゴル民族が登場。チンギスによって統率されたこの遊牧国家が登場した理由自体がまだ学説的には解明されていないらしい。当初からモンゴルの遊牧民以外にキタン人、女真人、ムスリムなど複数の民族を包含し、まず金をせめてキタン系遊牧民族をモンゴルに取り込み、さらに現在のイランに相当するホラズム・シャー王国を滅ぼす。さらに西夏を傘下におさめる。
 さらに「タタールのくびき」となる西北ユーラシアへの侵攻を深め、ハンガリー、ポーランド方面へ展開。シリア方面には十字軍が遠征していたが、それまでのキリスト教国家対イスラムという図式から、モンゴル対イスラムという図式に変わっていく。バグダッドは陥落し、アッバース朝は滅亡。教科書などではなかなか見れないモンゴル西征の図が理解をさらに促進してくれる(184ページ)。通常一般の歴史ではキリスト教国家からみたモンゴル、あるいはイスラムからみたモンゴルということになるが、この本ではモンゴルからみた南宋やアッバース朝、ルイ9世やローマ教皇という視点になる。210ページにはモンゴルが西へ進んでいった様子が見開きで掲載されている。神聖ローマ帝国やビザンティン帝国という「名ばかり帝国」の面積とモンゴルの面積を比較すると、今でいうヨーロッパという地域は風前の灯火に近い様子であったことがうかがえる。

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