2010年2月20日土曜日

不良中年の風俗漂流(祥伝社)

著者:日名子暁 出版社:祥伝社 発行年:2009年 本体価格:780円
 永井荷風の紹介から始まり、その跡地をたずねる著者のルポ。60年代~70年代から現在にいたる「買売春」の歴史をたどり、「現代」の一歩手前で「現代」の話が終了。浅草、錦糸町など歴史のある街のレポートがけっこう面白く、現代の風俗紹介はやや「スポーツ新聞」的でわざわざ本を読まなくてもいいかな、という感じも。浄閑寺の写真と新吉原総霊塔の写真が粛然とした感じをかもし出す。永井荷風が何度も訪れた場所であるとともに、吉原で働いていた遊女約2万5千人が「吉原無縁」として埋葬された跡だ。このお寺は遊女の死体が投げ込まれたお寺でそれを悼む場所ということで俗称「投込寺」。そしてその石柱の向かい側に永井荷風の碑がたつ。今はまさか「投込」ということはなかろうが、きれいごとではない過去の「現実」がこの新書の写真には映し出されている。
 経済分析っぽい文章やルポ的な文章、さらに簡単なガイドブックと盛りだくさんだが、これは要は著者の「こころの旅」をそのまま風まかせに書き連ねてそれを編集者が再構成していったという印象。けっして悪い作品ではなく、10年後や20年後にはひとつの風俗歴史資料にもなりうると思う。都電荒川線三ノ輪橋駅にふらっとおりたときにちょっとガイドブック片手に三ノ輪の歴史を振り返りたくなる…苦い歴史と哀しい歴史を積み重ねて、21世紀の今、ふっと過去を現在にだぶらせて考える時間をくれる本。

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