2012年4月14日土曜日

IFRSはこうなる(東洋経済新報社)

著者:田中弘 出版社:東洋経済新報社 発行年:2012年 本体価格:1600円
 IFRSについては批判的なスタンスの本である。EU域内の会計基準統合に利用されてきた経緯や、「買収価格」を計算するのにIFRSが非常に適合していることからくる懸念が表明されている。著者が主張するように個別財務諸表は収益費用アプローチで、連結財務諸表はIFRSをベースにした資産・負債アプローチで作成し、さらにIFRSは任意適用するというのはわりと現実的な話であるように思う。ただIFRSを全面否定はやはり私としてはできず、収益費用アプローチの良さは認めつつもIFRSもしくはIASの影響で日本は退職給付会計やリース会計の整備ができるようになった(著者はリース会計の整備についても批判的である)。リース債務については買収案件ならずとも利害関係者にとっては重要な情報であるほか、GMなどの例にもあるように退職給付債務の金額は伝統的財務会計制度では「隠れた債務」となっていた。それが時価会計ないし資産負債アプローチによって財務諸表に計上されるようになったのは、やはり投資家にとってはいい情報だ。著者の主張を参考にしつつもさらに妥当な調和としては、個別財務諸表については収益費用アプローチを重視しつつも時価主義会計も取り入れ、連結財務諸表については資産負債アプローチを重視しつつも包括利益計算書で当期純利益を区分表示するなど一部収益費用アプローチを取り入れるということになるだろうか。個別財務諸表についても連結財務諸表を作成するプロセスでIFRSを適用してから作成するのであれば、有価証券報告書などに添付してもよいだろうし、XBRLなどを活用できるように財務データをウェブからダウンロードして投資家やアナリストが独自の「財務諸表」を作成できるようにしてもいいはずだ。
 IFRSが、ここ数年あまりにも急激に「力」をもちすぎた面はある。 ただ昔の取得原価主義ではやはり経済的実態を反映しきれてなかった面もあるので、両者ともに公表(開示)していくというのがベストな選択ではないかというのが読後感。

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