2012年4月28日土曜日

運命の人 第二巻(文藝春秋)

著者:山崎豊子 出版社:文藝春秋 発行年:2010年 本体価格:619円
 「毎朝新聞」政治部のスター記者として活躍していた弓成は警視庁に出頭後、国家公務員法111条違反容疑で逮捕。警視庁の留置所に拘留される。この「脱落感」はこれまでの為政者が逮捕されたときにも共通するものではないか。言論の自由を縦に紙面構成をする毎朝新聞も、事件の背景が明らかになるにつれトーンダウンしてきた。
 小説が舞台背景にしている時代と情報公開法などが定められた現在とでは状況が異なる。ただし「公益」と「情報公開の原則」の矛盾する在り方は今後も設定をかえてまた起こりうる話だ。昭和47年当時であれば「報道」は新聞や雑誌、テレビがメインだったが、これからはインターネットによる情報発信ももっと増えてくる。新聞記者のスクープは官庁にしてみれば機密漏洩にあたる事由も増えてくるだろうから、「西山事件」が提出した論点はやはり大きい。大きな流れでいえば沖縄はやはり日本に返還してもらうのが当然の流れだったし、そこに至る過程で原状回復費用などのコストを日本が肩代わりするのもやむをえない選択だったのだろう。今の状況からすれば返還が確定したあとに、こうした事由についての了解を国民に問う…という流れもありうるが昭和47年の段階では大義のためには機密保護を優先せざるをえない建前があったのかもしれない。西山事件当時の外務省のアメリカ局長が91歳で証言をしたのはこうした時代の変化をふまえての決断だったのだろう。大義をおしとおせば、個人のなかには私生活が犠牲になる人もいる。その犠牲をはねかえすか、あるいは犠牲につぶされるかはまた個人それぞれの資質にまかされる。この小説の主人公「弓成」は、あくまでジャーナリストの「報道」を優先したのだろう。もっともニュースソースが明らかになるようなデータを野党の政治家に渡すなど、脇の甘さがあったことは事実。主人公の傲岸さもあわせて書く事で、この小説の深みも増している。

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