2012年4月12日木曜日

集中力(角川書店)

著者:谷川浩司 出版社:角川書店 発行年:2000年 本体価格:571円
将棋の世界は非常に厳しい。一定の年齢までに4段にならなければプロの道を立たれる。そしてA級のなかで勝ち抜いて名人を獲得するのは天才と天才の争いのなかで決するだけにすさまじい集中力を必要とする。脳科学的に集中力を分析することは医学の研究者であればできるが、その研究者が名人ほどの集中力を実際に発揮できるかどうかはまた別の問題だ。そこで集中力について語るこの本の希少性がうまれてくる。1万時間の努力の蓄積やミスをしたときの気持ちの切り替え、先入観をもつことで生じる情勢の分析の誤りといった項目は、それぞれの世界ですぐ活きる。そして名人が最終的に重視しているのが周囲の応援と「気力」というのが興味深い。戦術の分析や過去の歴史は当然のことながら研究するとして、それをいかに現場で活用するのかは「気力」や「周囲」にかかってくるというのだ。「勝てばいい」という狭い考え方ではやはり一定のレベルで行き詰まりを見せるということだと思う(受験勉強でも受かればいい、というのではなく受かることとにくわえてプラスなにをするべきか、がポイントになるのと似ていると思う)。謙虚さと凄みが入り混じった名人らしい切れ味のよい新書である。

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