2012年4月27日金曜日

運命の人 第一巻(文藝春秋)

著者:山崎豊子 出版社:文藝春秋 発行年:2010年 本体価格:619円
 もはや憲法の判例集などでは掲載されていない本がないほどの有名な事件「西山事件」を題材にした小説。すでに最高裁でモデルとなった元新聞記者の方の「有罪」は確定しているが、その後当時の外務省アメリカ局長だった方が「密約の存在」を法廷で証言。地権者などへの賠償金を日本がアメリカを迂回して出資するという密約の存在を認めた。この事件が戦後の「言論の自由」をめぐる各種の判例のなかでも異色をはなつ事件だったことは間違いない。憲法判例集などで事件や判旨を読んでも「情を通じ」といった表現にぎょっとする。国家公務員に対する守秘義務違反を際立たせようという当時の検察庁の意図もあったのだろう。ただ文章全体にただよう「下世話感」がこうして歴史を積み重ねていくと「異形の判決文」「異形の判例」になってしまったのが皮肉といえば皮肉である。この第1巻では主人公が「花形記者」として活躍していた様子と警視庁に任意出頭、逮捕されるまでの様子を描く。新聞社の側にも外務省の側にもいろいろな予測と計算があったのだろうが、50年以上を経て、なおも「話題」と「関心」をよび、さらに判例集に必須の事件になってしまったのは両者にとっては大きな誤算だっただろう。

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