2012年4月7日土曜日

マリー・アントワネット 運命の24時間(朝日新聞出版)

著者:中野京子 出版社:朝日新聞出版 発行年:2012年 本体価格:1600円
 ルイ16世のパリからの逃亡。この事件が立憲君主制をめざす穏健派をしりぞけ、ジャコバン派による恐怖政治を招く転換点となる。大事件なのだがルイ16世の逃亡中のメモ書きはきわめて牧歌的。切れ者のフェルゼンを途中で解任し、逃亡の主導権を握ったルイ16世だが、追っ手はラファイエット。単なる人気ものではなくアメリカ独立戦争でそれなりの功績をあげた武将はやはり只者ではなかった。この逃亡の24時間を時間軸をおって検証したのがこの本で、左から右(ヴァレンヌ)まで伸びたルートの地図を参照しながら内容を追っていくことができる。断頭台に消えたアントワネットの数奇な人生を彷彿とさせる逃亡中のエピソードの数々。失敗の要因はかなりあったとはいえ、それでも5時間にわたる「遅刻」のかなりの部分はルイ16世の油断と状況分析の甘さにあった。そもそも逃亡さえしなければ恐怖政治もなくナポレオンの台頭もないまま立憲君主制に移行していた可能性も少なくない。フランスにとってフランス革命は非常に「微妙な出来事」のようだが、輝かしい人権宣言のあとに到来したギロチンによる粛清はやはり暗い時代の出来事だったのだろう。ロココの美術は繊細でか細いといった印象でナポレオンの時代には新古典派の時代となる。ひっそりとした芸術の存在はまさしく馬車のなかでゆらゆらゆれて再びパリに連れ戻されたアントワネットそのもののようだ。

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