2012年4月11日水曜日

ルポ貧困大国アメリカⅡ(岩波書店)

著者:堤未果 出版社:岩波書店 発行年:2010年 本体価格:720円
 ハリウッド映画でよく見られるシーン。「父さん、僕大学にはいかないよ(あるいは行けないよ)」。
 こういう資金繰りのために大学進学を断念するのは、アイビーリーグのような私学だけかと思っていたが、この本を読むと、民間の学資ローンが巨大化し、さらには大学の授業料は公立であっても上昇する一方であることがわかる。 授業料の値上げの要因は公的予算削減(著者は断言していないが軍事費の増大が遠因ではないかと推察される)と設備投資。さらに投資の失敗。公的奨学金も一応あることはあるが、それが民間のサリーメイにおされていく様子を著者が淡々とつづっていく。学資ローンの債権が「転売」されていくというのもアメリカならではか(日本では債権譲渡は一応自由だが学資ローン債権の譲渡が金融機関相互でおこなわれるところまではいっていないはずだ)。この学資ローンにつづく企業年金削減のルポがさらにすさまじい。アメリカ災害の産業別組合UAWはつとに有名だが、破綻したGMは退職した従業員に対する企業年金と医療保険はかなりてあついものがあった。それはもちろん労働組合の「成果」ともいえるが、これが現役世代を苦しめる。民間企業で死亡するまで企業年金を引き受けるというのは実際には無謀に近い。日本でも確定給付型から確定拠出型年金に切り替える会社が増えてきているが、その維持コストが企業や現役世代に与える負担はかなり重たい。右肩がりの幻想から生まれた労使協約がかえって企業の寿命を縮めたのは皮肉だ。この本はさらに医療保険改革や刑務所ビジネスにまで話が及ぶ。
 読んでいるうちにふと思う。日本はアメリカとよく似たコースをたどっているようで実は違うルートをたどっている。学資ローンはアメリカほどあこぎではない。住宅ローンの負担もおもたいかもしれないが、サブプライムローンほど破滅的ではない。健康保険は国民皆保険だし、組合はだいたいとのころ企業別組合だ。市場原理の貫徹がアメリカほどではない、という見方もできるが、UAWのような巨大労働組合は市場原理とは程遠い存在だ。経済的なインフラが問題なのではなく「違い」は文化的な要因にあるのではないか…という気がしてならない。とんでもない企業年金や労使協定は期間の違いはあれど「みっともない」ということで「是正」されるのが日本で、「権利は権利」といすわるのがアメリカというように断定してしまってはアメリカに気の毒だろうか。消費することが美徳というような生活のアメリカと中国の影響下で「竹林の七賢」のような生活が一種憧れをもって語られる国とでは、たとえば学生ローン債権の転売を是とするか否とするかでかなり違う結果を生む。国民皆保険も経済原理からすればけっして非合理的なものではなく、むしろリスクを分散するという観点では合理性をもつ。それが受け入れられないアメリカはよくいえば「個人が確立」しているが、日本では「助け合い」となる。つくづく「経済理論」も土壌となる文化が違えば似て非なる花が咲くものだと思う。

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