2012年4月29日日曜日

運命の人 第四巻(文藝春秋)

著者:山崎豊子 出版社:文藝春秋 発行年:2011年 本体価格:638円
 新聞記者をやめ故郷に帰るが、その後沖縄の宮古諸島で隠遁生活を送る「弓成」。花形の政治部記者としてのキャリアは絶たれ、自殺も考えたすえ、沖縄と在日米軍の基地の問題に目を向ける…。
 ここから先が事実をもとにしたフィクションの世界でどこからどこまでが本当なのかはわからない。ただこの第四巻では沖縄返還密約問題以上に第二次世界大戦末期における沖縄の攻防戦の悲惨さとその後の基地問題にページがさかれている。民主党の鳩山元総理の不手際で米軍基地の移設はさらに混迷を深めたが、第二次世界大戦だけではなく琉球王国と薩摩藩の関係の時代からも「本土」と「沖縄」には複雑な問題があった。それがさらに悲劇につながったのが、第二次世界大戦の本土決戦と基地問題、そして返還にまつわる種々の外交交渉だ。
 アメリカとの外交関係を重視すると、今の状況では沖縄県民への情報開示が不足し、理解を得ることもできない。密室外交のつけが、今の移設問題につながったともいえる。「あとがき」で著者の山崎豊子氏がアメリカ公文書館で密約を立証する文書が発見されているにもかかわらず秘密主義を貫こうとする元外務省官僚に怒りを爆発させているが、情報開示や審議誠実をアメリカの外交官に貫くのか、あるいは国内の国民に貫くのか、どっちを優先させているのかわからないのが沖縄をめぐる外交問題ともいえる。
 この「西山事件」については当初の関係者は「時間が経過すれば歴史の流れのなかに埋もれるだろう」と考えていたふしがなくはない。ただ昭和47年から現在の平成24年に至る時間の中では、情報公開法や憲法の表現の自由などを考える際には必ず引き合いにだされる「教材」になっているほか、沖縄問題を考えるさいにも必ず参照される事例になっている。今後さらにこの問題や機密文書、当時の検察庁による起訴状などはさまざまな角度で検証されることになるだろう。
 単行本が上梓されてから異例の早さで文庫本になったというが、それは著者による「この問題をなるべく早く多くの人に知ってほしい」という思いからだという。携帯電話もPDFもない時代の取材や報道の「小説」だが、インターネットの発達した今だからこそ投げかけている問題は大きい。

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