2012年4月8日日曜日

ザ・コストカッター(角川書店)

著者:黒木亮 出版社:角川書店 発行年:2012年 本体価格:819円
 元三和銀行の行員で国際金融小説では定評のある黒木亮さんの作品。カラ売りを本業としつつ、ボランティアでハーレムの子供たちに算数を教えながら、「極東スポーツ」の不審な決算報告から実態を探り出していく。カラウ売りは先物売買のひとつで株価がこれから下がると見込まれる場合、あらかじめ高値で売却契約を結び、現物は借入れておく。実際に期限になったときには下がっている株価で現物を買い入れ、売却価格で売り抜ける。もちろん相場を読み違えて株価が上昇した場合には巨額の損失を被るもの。企業再生請負人とよばれる「蛭田」の手法は極端なまでのコストカットとファイナンス市場向けのアナウンスで株価を釣り上げ、いずれは企業を売却していくというもの。カラ売りを手がける北川はその手法に真っ向から挑んでいく。
 あまりこれまでコストカットで企業が再生した例は聞かない。バブルの直後や、金融や電力など規制産業で不必要な固定資産を抱え込んでいるような企業は別だが、そうでない企業にとってはコストカットは必要な販売組織や経理組織を切り詰めていく効果をもつ。必要経費まで削ると売上高までそのあと急落していくので、コストカットはあくまで最初の手段で、本当の企業再生のためには斬新な製品開発や販売戦略しかありえない。不景気が続く日本ではあるが、「必要なコストまで切り詰めてしまうコストカット」はいずれ企業の本業の売上まで切り詰めてしまうということ、もう少し各経営者に再認識してもらいたいものだが…。

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