2012年4月9日月曜日

映画欠席裁判(文藝春秋)

著者:柳下毅一郎 町山智浩 出版社:文藝春秋 発行年:2012年 本体価格:895円
 映画「ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」をもじって「ファビュラス・バーカー・ボーイズ」を名乗る二人の映画談義。これまで単行本として出版された本3冊を文庫本に凝縮。そのせいかビミョーに扱われている映画が古い。それがまたいいんだけれど。映画評論の映画評論たる所以は、読者が「ん、この映画面白そう」っていうことで実際に映像の世界に入ってみようとするモチベーションを与えること。この本、かなりの部分実際に私は見ているけれど、それでも見てない作品についてはDVDで入手してでも見てみようと思った。で、この本ではあまり評判の良くない映画がまず「ポセイドン」。1972年の原作をさらにリメイクした作品が評判悪いのだが、いやリメイクも面白かった。この映画の醍醐味は根拠も何もない戦略の立案と実行。原作でもジーン・ハックマンが根拠なく船尾に向かうがリメイクでは賭博師(ギャンブラー)がそれなりに理屈を駆使して目的地に向かう。根拠のあるパニック映画と根拠のないパニック映画ではやっぱり根拠のあるほうて素敵。ま、どっちもいい勝負といえばいい勝負なのだが、80年代B級映画のスター、カート・ラッセルが出演しているあたりリメイクの魅力もそれなりにある。
「ダ・ヴィンチ・コード」も非常に評判悪いのだが、自分としてはそんなに悪い話とは思わなかった。なんにしても映像がとても綺麗で、ラスト間際の道路沿いから垂直にスルスル下降していくカメラワークはまさしくロン・ハワード監督の才能そのもの。粗筋だけとってみると「なんだかな」の世界だが、同心円状に物語が拡大してまた一定の収束に向かうという幾何学的構図こそがこの映画の醍醐味だった記憶がある。
 映画ってけっきょく「たくさん見てナンボ」の世界でもあり、いわゆる「名作」ばかりみていても映像イメージは広がらない。B級映画を含めてたくさん作品をみて脳内にイメージを蓄えて、それでまたまた映画談話を繰り広げていくプロセス全体が映画鑑賞っていうことではないかと思う。エリック・ロメールとかゴダールとかばっかり見ている人よりもアクション映画からコメディまで幅広く映画を見ている人のほうが絶対「強い」。この本読むのも結局、映画鑑賞のひとつでもあり、映画鑑賞の「前振り」っていうことになるのではないかと。

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