2012年4月12日木曜日

名画の謎~ギリシア神話編~(文藝春秋)

著者:中野京子 出版社:文藝春秋 発行年:2011年 本体価格:1524円
 「通俗の極み」ともよばれるB級映画をみていて、時に「アカデミー賞作品賞」をもしのぐ傑作を見出したりする。三池崇史監督の「殺し屋1」とか「13人の刺客」とかは映像って躍動するものだな、とつくづく思う。絵画についてはどうか、というとこれは歴史が映画よりもはるかに長いせいか一定の評価が覆るということはめったになさそうだ。ただポストモダン的な絵画の「評論」ってわけがわからないが、この「名画の謎」は「まず何が描かれているのか」、そして「画家は何を題材にしていかに遊ぼうとしていたのか」を分析してくれる。あ、こういう絵画評論だと絵は苦手だが、絵を見ることが楽しくなる。「何が書かれているのか」を虚心に見ることって意外に展覧会などでも少ない。でも限られたスペースで何かを書こうとした場合、不必要なものはけっして描かれることはないはずだ。それがギリシア神話から題材をとったものであれば、まずは書いた瞬間の世相なり画家の事情なりが反映されているわけで。ただ著者はそうした近代的な見方を紹介しつつ、さらに著者独自のポストモダンな解釈も展開してくれているので、題材分析にとどまることはない。歴史や画家のエピソードにも目配りが聞いていて、「芸術でござい」という上段にふりかぶったところがないのが読みやすい。絵画の印刷も非常に綺麗でオフセット印刷もここまできたか、と感慨にふけることしきり。

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