2012年4月28日土曜日

運命の人 第三巻(文藝春秋)

著者:山崎豊子 出版社:文藝春秋 発行年:2011年 本体価格:638円
 弓成の国家公務員法違反は東京地裁では勝訴。しかし高裁では逆転有罪となり、最高裁では高裁判決維持で上告は却下される。
 「知る権利」(国民にとっては知らされる権利)と国家機密の維持の問題はいわゆる「男女問題」と同等に報道され、弓成は新聞社を退社することになる。
 モデルになったと思しき某全国新聞も実際の事件では途中から腰砕けになっていたというが、小説の中でも若手や組合の言い分よりも販売部門や上層部の意見が通っていく様子がなまぐさく著述されている。「言論の自由」を守るというのは、憲法のテキストにかかれているよりも、泥臭く根気が必要になる… というモデルをこの小説は提供してくれているのではないか。そしてともすれば「第四の権力機関」にもなってしまう新聞記者の傲岸さも。
 国家レベルでいえば情報公開と機密維持の利益のバランスの問題だが、個人レベルでは主人公は外務省事務官を懲戒解雇と離婚に導いたことになる。悪意のこもった証言や手記があきらかにされても悄然とそれを受け止めることができるのかできないのか。ひたすら「奈落」の底に落ちていく様子がこの第3巻。

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