2010年10月31日日曜日

オロロ畑でつかまえて(集英社)

著者:萩原 浩 出版社:集英社 発行年:2001年 本体価格:457円
「村おこし」にかける山奥の村は広告代理店を活用した勝負にでた…。まあ、ありがちな設定で実は話題をよぶほどにはならないというのがこの手の地域産業振興。その地域産業振興と小さな広告代理店がタッグを組んだらどうなるのか…という設定で、「んなばかな」というところまで作者が追求してくれる。いきあたりばったりで、それがまあうまくいくこともあれば、いかないこともあるという…。男女の恋愛のもつれなどもサイドストーリーで描写されているのだが、心が離れていく男性の「ホクロ毛」の長さの描写がうまい。実際、本人は気づいていなくても長年交際しているうちに相手しかしらないということも当然出てくるのではないかと思う。それが白髪のホクロの上にはえた長い毛だったというあたりがまあ、散文的だなあ、と。

ひとしきり読んで笑って、まあそれから後にはまた現実にかえって…というのがこの手のユーモア小説の一種寂しさも感じる読後感。こういう村、実際にけっこうありそうなんだが、おそらく30代、40代もいなくなっている村、でてきているかもしれないな…。

2010年10月26日火曜日

29歳でクビになる人、残る人(PHP研究所)

著者:萩原智明 出版社:PHP研究所 発行年:2010年 本体価格:720円
リストラ(とはいえ正社員の場合には判例そのほかでかなり厳密な適用例が定められているが)にあいやすいタイプとそうでないタイプを実務を考慮して分析した本。①人の話を良く聞く②後輩の面倒をよくみる③他人の嫌がることに手を上げるといういっけん仕事に関係のないことが重要と筆者はとく。嫉妬心を自分自身の前向きのバネにするといったプラス面の活用なども会社実務には役に立つと思う。シーザーであれアントニウスであれ古代ローマの帝国の支配者は大義名分と民衆の動向をかなり重視していた。口は災いのもとなのだから、ちょっとしたことで民衆の人気は左右にぶれ、その結果帝国の為政者ですら、権力を失うことにもつながりかねない。他人の行為をないがしろにせず少しでも大事にすることが仕事を進めていくことが重要なのではないか…というこれまでのスキルアップ、キャリアアップ路線とは違う側面を説いた名著。能力の有無は二の次で、やはり第一は人間性と「この人であれば」という希望をもたせる言動ではないだろうか。

2010年10月25日月曜日

時計じかけのハリウッド映画(角川書店)

著者:芦刈いづみ、飯富崇生 出版社:角川書店 発行年:2008年 本体価格:760円 評価:☆☆☆
ハリウッドの映画のシナリオは「脚本学」にもとづいて計算されたものだった…。これまでにも物語についていろいろ書かれた本はあったが、テーマやキャラクター設定などがある程度定式化されていれば才能の有無にかかわらず着想のみで一定レベルの脚本が書けることになる。いや、そうでなければあれだけ大量のハリウッド映画の製作はやはり無理だともいえる。定式化された物語の文法から、それぞれオリジナルの発想が積みあがってさらにオリジナルの「物語」が生まれてくる…ということになる。ハリウッド脚本製作用の「ファイナルドラフト」なるソフトウェアまですでに制作されているというのは驚き。ただそこまでくるとやはり才能というのは時間設定やキャラクター設定のさらなる上の次元で発揮されるということになるだろう。ラストはやはり急速な展開だが、そうしたドラマツルギーってかつては脚本家の才能によるものだった。今では定式化された文法ということになるが、だとしたら前段での「仕掛け」はより巧妙なものにしなければならない。題材はスター・ウォーズや「リング」など。主人公を支えるメンターというキャラクター設定もかなり重要で興味深い。

iPadでつかむビジネスチャンス(朝日新聞出版)

著者:板橋 悟 出版社:朝日新聞出版 発行年:2010年 本体価格:740円 評価:☆☆☆
iPadというとどうしても「電子書籍」という連想がわくが、著者はナビゲーターや学習教材などのほうが汎用性がでてくると主張。一般的に考えられているよりも異業種からの参入のほうが可能性が高いという主張だ。デジタルカメラがそうであったように、カメラ業界よりもそれまで電卓市場で勢力を誇っていたカシオやパナソニック、ソニーといったメーカーがデジタルカメラ市場を席巻したことを想起すれば、iPadのコンテンツは出版社よりも学習塾や地図出版社のほうが勢力を拡大しやすい面が確かにある。いわば「フラットな世界」だから、書籍にかかわらず、情報を画像として表示する技にたけている企業であればゲーム業界からも参入が予想される。携帯することで便利になるのはナビゲーションや学習教材以外にもいろいろ考えられそうだ。「これまでとは違う発想」で物事を考えること、iPodがそうであったように、この本を読めば、読者それぞれの新しいビジョンを開く鍵を得ることができるだろう。

2010年10月24日日曜日

西原理恵子の太腕繁盛記(新潮社)

著者:西原理恵子 出版社:新潮社 発行年:2010年 本体価格:1100円 評価:☆☆☆☆
西原理恵子氏が手塚治虫賞を受賞したときにはかなり驚いたが、天下の新潮社から西原理恵子のマンガが出版されたときにはさらに驚いた。マンガといえば新潮社もこれまで進出を試みようとしていたが、いまひとつ「おっさんが無理に10代の感性を語る」的な無理っぽさが漂っていた。そしてこの西原氏自前の1000万円を元手のFX体験記。このマンガと昨今の円高で、FXブームも終焉をむかえそうだ。80円以上はいかないという神話もくずれ瞬間的ではあっても70円台まで進んだ為替相場。アマチュアが中途半端な投資をしても全部スッテンテンになるというおそろしい市場であることはこのマンガではっきり。FX関係の雑誌もいくつか出ているが、1000万円がすっからかんになるという恐ろしい状況まではたして一般の投資家に覚悟ができているかどうか。「自分をソンきり」というフレーズに思わず爆笑。

2010年10月19日火曜日

家のない少女たち(宝島社)

著者:鈴木大介 出版社:宝島社 発行年:2010年 本体価格:457円
評価:☆☆☆☆☆
宝島というサブカル、ポップな印象を持っていた出版社の本としては、重たい内容を丁寧なインタビューと取材で重ねた教育問題のあぶり出しに近い内容になっている本。教育問題というよりも家庭を含む社会問題なのかもしれない。家庭内暴力、いじめ、性的虐待、妊娠とあらゆる不幸が18人の少女たちにふりかかる。その後の選択肢として「家を出る」「児童自立支援施設を出る」といった行動をとった彼女たちにはそれなりの動機と理由がある。喫茶店Rを根城にしてその後逮捕された売春グループに所属していても家庭や施設では得られない「共感」「仲間意識」を得られたのだとしたら、だれも彼女たちの選択が単純に間違いだったとは言い切れまい。
書店でこの本をとったのは、ある知人が、「自分には父親が3人いる」「1人目は賭博で3人目は酒乱だった」といっていたからだ。その結果、家にはいづらくその人は高校時代を彼氏の家を渡り歩いてすごしたという。つまりは、この本の女の子たちと同じ境遇だったわけだ。
痛々しい内容に読み終わった後はショックを受けるかもしれない。あるいは「よくある話さ」といって切り捨てることもできるかもしれない。ただし表の社会ではけっしてでてこない同時代の流れをこの本で知ることができる。

2010年10月16日土曜日

神様からひと言(光文社)

著者:萩原浩 出版社:光文社 発行年:2005年 本体価格:686円
若い世代に向けた企業小説というべきか。高杉良さんの小説が中年の脂ぎったビジネスパーソンの闘争だとすると、そうした世代に牙をむく27歳の若き転職入社の奮闘が一種さわやかでもある。まあ、40代、50代であれば、相手のスーツや名刺を値踏みしたり、会話の教養なんてものをおしはかったりもするかもしれないが、この本の主人公やタトゥーを入れた若い青年。すべてストレート勝負で「マルちゃんラーメン」のために奮闘する。読んでいて面白いのは「クレームの対応集」。相手の話を良く聞く、まず謝罪する、そしてなによりも商品知識がクレーム対応を可能にするという実践例が豊富に掲載されている。商品知識とはいってもとおりいっぺんのことではなくて実際に食品産業であれば何度も食べてみて味や調理方法、他社の動向などをふまえたかなり詳細な理解。この哲学を他の業種におしすすめていくと、汎用性があるテクニックとして使えるようにもなるだろう。一定の年齢層以上には「んなアホな」というような場面もないではないが、全編とおして爽やかさとエネルギー全開のサラリーマン奮闘集。

2010年10月15日金曜日

「性感染症」常識のウソ(NHK出版)

著者:林義人 出版社:NHK出版 発行年:2006年 本体価格:700円
いわゆるSTDについて解説してくれている新書。読者層としては思春期の子供をもつ親といったところだろうか。性の低年齢化などは都会よりも地方のほうが根が深い、日本のSTDの感染率についてはデータ不足(実態はもっと深刻なのではないか)、ダブル感染・トリプル感染などのリスクが紹介されている。抗生物質の開発がウイルスの耐薬性の進化に追いつかない危険など、放置しておくと少子化の原因にもなりかねない現状に警告している。内容的には性感染症以外に、子宮ガン検診は20歳から始まっていることや、クラミジアの放置はHIV感染のリスクを引き上げることなどわりと性にまつわる全体的な問題がとりあげられている。
「寝た子を起こさない」という方式がもう通じない時代で、ある程度正面から問題をみすえていかないと、さらに根が深くなること、さらには学校にまかせるよりも個々の家庭で取り組まないとまずい状態になっていることなど社会全般に向けたメッセージが強い。ただタイトルが非常に率直すぎて、逆にレジに持っていくのには相当心理的抵抗が強いのは事実。読んでみようと思った自分ですら、「レジで自分はどう思われるだろう」とかいろいろ逡巡してしまうので、「レジにもって行きやすいタイトル」というのも考慮してくれるとありがたい。本体価格は700円。新書サイズでは標準価格帯だが、意味不明な写真が1ページ掲載されているページなどがあり、そうしたところにはデータなりデータ分析なり、スペースを利用した造りが欲しかったのが残念。

セックスエリート(幻冬舎)

著者:酒井あゆみ 出版社:幻冬舎 発行年:2006年 本体価格:457円
いわゆる風俗店の「ナンバー1」の女性を取材して、著者なりのホスピタリティ哲学を導き出していく展開になっている。意外なポジションにいる意外な人から「これだ」という結論にたどりつく著者のインタビューの結果がでてくるのだが。学習するだけのことはして、それからさらに自分なりのオリジナリティを出していく…というのは他の職業でも同じかもしれない。ナンバー1にそこまでして哲学をもとめるのは、日本だけの風習なのかどうなのか。ただ野球でもエースや4番打者には、他のピッチャーやバッターとは異なる礼儀作法や高い倫理感が求められるのと同じで、お店のナンバー1を名乗る以上、そのお店の品格を具体化した存在になってしまうのかもしれない。こういう個人事業主に近い職業だと、サービスについてもお店のいいなりではお客がつかない、ではどうすればいいのか、ということで各人各様の知恵を絞る。しかもいろいろなリスクが高い職業でもあるわけで、そうした中で一種の強靭さとしなやかさを蓄積していった結果のナンバー1.登場人物はさまざまだが、「できることはないか」と探索していく姿のなか、ある一定のところで「お金」の話よりも別の次元に話がうつっていくのが興味深い。

2010年10月12日火曜日

図解で身につく!ドラッカーの理論(中経出版)

著者:久恒啓一 出版社:中経出版 発行年:2010年 本体価格:600円
「女子高生の…」が大ベストセラーになった余波だろうか。ドラッカー関係の書籍が書店でかなり目につく。このブームはいったん始まって、いくつかの良書を残してまた別の経営書に目が向くと思われるが、そのなかでもこの文庫本は書店のワゴンに平面陳列され、お値段もお手ごろということで売れているようだ。図解が左側、文章が右側だが、当然のことながら、何かに応用しようという場合には読み返したり、自分なりに仮説をたてて別の局面に使えるようにしておかないとならない。顧客創造の重要性は、小売商からメーカーまで幅広く浸透しているが、その顧客創造をなしうる大きな手段が①イノベーションと②マーケティングだ…としたドラッカーは先見の明があったということか。今ではある程度知恵のまわるお店ならばどんなに小さなお店でもなにがしかの仮説にもとづいたマーケティングとIT機器によるイノベーションはするようになった。後は、ひととおり出回ったIT機器でさらに別の展開をどう組み立てるか、がポイントだが…。

フェイク(角川書店)

著者:楡周平 出版社:角川書店 発行年:2007年 本体価格:667円
大学卒業後すぐに銀座の高級クラブに入店した主人公は、「フェイク」にまつわるビジネスに手を染める…。現在はやや大衆化してきた銀座だが2000年前後の銀座のシステムが興味深い。いわゆる「永久指名」という制度、銀座特有の「品」を保つために独自に編み出されいた指名制度なのだろう(ボトルを最初に入れさせたホステスが永久担当隣、その後の指名にかかわらず売上の定率が報酬として計上される制度)。26歳でママとなったもう一人の主人公が華を添える。チャンスをつかんで飛翔していこうとする20代前半の一種の青春小説か。ただまあ、実際にこの手の「話」が持ち込まれるとしたら、入社すぐの新人か、あるいは逆にベテランで実直な勤務状態の信用できる男かどっちかだろうな、と思った。新人であれば変な色には染まっていないので機密が漏れる心配もないが、その逆もまた大変になるしなあ…。一気に読める「コン・ゲーム小説」。

高校生からわかるイスラム世界(集英社)

著者:池上彰 出版社:集英社 発行年:2010年 本体価格:1365円
評価:☆☆☆☆☆
こういう本が書店に出回っているのは今の高校生にとって天の配剤だろう。私が高校生のころには難解な言葉やわかりにくい歴史的事件などは自分で図書館にいって専門書を調べないと、なかなかイメージを抱くことさえできなかった。だが図書館などに自ら行こうというのは億劫なので結局そのまま何もせずに卒業…という展開になる。この本ではイスラムにしぼってシーア派とスンニ派やオバマ大統領の計算、アフガニスタンという国の歴史、イラン・イラク戦争などを概括できる構成になっている。いずれも遠く離れた日本にとっても影響力が大きい事件ばかりで、知っておいたほうが知らないよりも明らかに外交問題、歴史問題などについて理解が深まることばかり。それが1365円で入手できるというのはお買い得というしかない。
ハリウッドでもイスラムを取り扱う映画が増えてきた(しかも一昔前の悪役設定ではない普通の市民としてのイスラム教徒)が、それだけ世界がイスラムに対して理解を深め、あるいは理解しようとしている証拠ではないかと思う。「わかりやすい説明」の池上彰氏の手腕が最大発揮されている書籍。

2010年10月9日土曜日

森の惨劇(扶桑社)

著者:ジャック・ケッチャム 出版社:扶桑社 発行年:2010年 本体価格:743円
アメリカで一番最初に発売されたのが1987年。ジャック・ケッチャムの3作目に相当するが、当時はまだアメリカでも評価が低い「猟奇的作家」の扱いだったようだ。それから23年が経過してこうして日本でも文庫本の形で購入できるようになったのはなにより。作品としての完成度は正直、いまひとつ。著者のメッセージは自らの青春時代とベトナム戦争、そしてその再来といった感じだが、「悪の救世主」たる主人公の「復活」はやはり80年代にはリアリティがあっても21世紀の今となってはちと弱い。これがイラク戦争だったらまた違う展開もあると思うが、ベトナム戦争とはまた違う傷跡になっているはず。こういう心に傷をおった帰還兵が「森」に対していだくイメージも違ってくるだろう。暴力的にみえて、最後はやはり登場人物のすべてが「救済」されるところがミソか。いわゆるパターンにはまった展開ではなく、衝動的に物語が進行していく面白さはジャック・ケッチャムならでは。ただまあ、あれだなあ。2010年現在となっては「携帯電話」が普及しているだけに、こういうスリラーはちょっと映画化も難しいような気がする。テクノロジーは救世主の存在を遠くへ押しやる効果があるようだ。

2010年10月6日水曜日

フリーター、家を買う。(幻冬舎)

著者:有川 浩 出版社:幻冬舎 発行年:2009年 本体価格:1400円
いわゆる「ライトノベル」出身の作家によるわりと「ヘビー」な内容の成長小説。軍隊式のある会社に入社したものの3ヶ月で退社、その後アルバイト生活をおくっているうちに家族に変調が起きて…という内容だが、こういう展開の人生ってわりと多いはず。いわゆる第二新卒のほとんどは「自分の人生」や「目標」を探索している人多いはず。ただし日本の企業はこの本の中でも書かれているように第二新卒やフリーターにはかなり厳しい処遇をする。そこでどうやって新しい目標を見つけ出していくか…。この小説は「どうすればいいのか」という問いかけに対して一つの答えを呈示した。おそらくこの本から新しい目標設定を見出せた人もけっこう多いのではないかと思う。テレビ化されるみたいだが、「会社のハッタリ」というくだりは「なるほどな」と思った。もちろん実質的には実力社会なのだが、 世の中にはタテマエとホンネの両方が並存する。「ホンネ」だけで勝負するってのは実際にはありえないのだが、学生時代には「ホンネ」優先だから「タテマエ」に我慢なら~んっていう人もいるのかもしれないが、そこを「ハッタリ」とさらっと書き流すあたりがこの作家の鋭いところではないかと思う。やっぱり人生、根性第一だなと思わしてくれる勇気あふれるストーリー。

ゼロ円ビジネスの罠(光文社)

著者:門倉貴史 出版社:光文社 発行年:2010年 本体価格:740円
評価:☆☆☆
「フリー」(NHK出版)がベストセラーとなり、初めてその本を読んだときには「なるほど」と思った。5パーセントの有料の消費者が残り95パーセントの無料消費者の分まで負担するというビジネスモデル、やや基盤が不安定な要素はあるものの「生命保険のちょうど逆」と考えることで腑に落ちる。この本では「フリー」の内容を受けてさらに具体的な事例を考察している。アナログ時代のタウンページやティッシュといったものも確かに「フリー」のビジネスモデルのプロトタイプだし、逆にこれまで無料だったサービスが有料制に移行する可能性も指摘されており、「フリー」よりもより具体的で近未来的な将来を予測している本だといえる。アンカリング、返報性の原則、保有効果、バンドワゴン効果といったミクロ経済学の用語もわかりやすく説明されているので、経済学が苦手な人にもとっつきやすい構図になっている。

2010年10月5日火曜日

テルマエ・ロマエⅡ(エンターブレイン)

著者:ヤマザキマリ 出版社:エンターブレイン 発行年:2010年 本体価格:680円
コミック単行本としてはやや高めの680円だが、題材が非常に難しく「お風呂関係」に限定されているのでやむをえない価格設定か。Ⅰ巻が入門編とするとこのⅡ編はさらに「コア」な方向へ題材を絞り込む感じ。読者もおそらくこのⅡ巻でかなりふるい落とされそうな感じがするが、日本のお風呂の題材をローマ時代にもっていけば…というこの展開、ひねりを加えるとすると、「男色」「お風呂のマナー」といったあたりから、さらに究極の展開になりそうな予感。いずれにせよ、風俗系の話も取り扱わなくてはならないだろうが、Ⅲの展開が今から楽しみだ。なんとなくお風呂につかりながら「芝居を見る」ってな展開は予測の範囲だが(健康ランドの映画みたいなもので)、さらにはお風呂の中での読書とかもありうるかな、と。まあこういった予想をいかに華麗に裏切ってくれるかというのも次回の楽しみになるのだが。

銃・病原菌・鉄 上巻(草思社)

著者:ジャレド・ダイアモンド 出版社:草思社 発行年:2000年 本体価格:1900円
今から10年前に発行された書籍ではあるが、再び新刊書店で平積み状態になっている。文化相対性というのは昔は「当たり前」ではない考え方だったが、歴史が一方向に進化していくというような単純な歴史観から今では「それぞれの地域性などによって文化の様態はさまざま」という考え方のほうが通説になっている。それでは農業の伝播や鉄の利用などの伝播の「差異」はどのようにして発生したのか…ということを明らかにしたのがこの本。スペインとインカ帝国の「激突」で一方が他方を圧倒的な勢いで倒したわけだが、それではスペインはインカ帝国より優れていたといえるのだろうか?いえないのだとしたらどうしてだろうか…そんなあたりを具体的に解説してくれている。「なぜシマウマは家畜化されなかったのか」といった「どうして」「なぜ」をわかりやすく解説してくている。ベスト&ロングセラーだが、やはり売れるのにはそれなりの理由があるとわかった次第。面白いしわかりやすい内容。