2010年10月9日土曜日

森の惨劇(扶桑社)

著者:ジャック・ケッチャム 出版社:扶桑社 発行年:2010年 本体価格:743円
アメリカで一番最初に発売されたのが1987年。ジャック・ケッチャムの3作目に相当するが、当時はまだアメリカでも評価が低い「猟奇的作家」の扱いだったようだ。それから23年が経過してこうして日本でも文庫本の形で購入できるようになったのはなにより。作品としての完成度は正直、いまひとつ。著者のメッセージは自らの青春時代とベトナム戦争、そしてその再来といった感じだが、「悪の救世主」たる主人公の「復活」はやはり80年代にはリアリティがあっても21世紀の今となってはちと弱い。これがイラク戦争だったらまた違う展開もあると思うが、ベトナム戦争とはまた違う傷跡になっているはず。こういう心に傷をおった帰還兵が「森」に対していだくイメージも違ってくるだろう。暴力的にみえて、最後はやはり登場人物のすべてが「救済」されるところがミソか。いわゆるパターンにはまった展開ではなく、衝動的に物語が進行していく面白さはジャック・ケッチャムならでは。ただまあ、あれだなあ。2010年現在となっては「携帯電話」が普及しているだけに、こういうスリラーはちょっと映画化も難しいような気がする。テクノロジーは救世主の存在を遠くへ押しやる効果があるようだ。

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