2010年7月25日日曜日

国際会計基準戦争(完結編)(日経BP社)

著者:磯山友幸 出版社:日経BP社 発行年:2010年 本体価格:1800円 評価:☆☆☆☆☆
 2002年に出版された前作も面白く拝見したが、今回の「完結編」も非常に面白い。仮名ではなく実名にこだわったというあたりは、各種の法的配慮もふまえたしっかりした取材にもとづく著述の裏返しでもあるだろう。通常であれば知りえないような会計基準をめぐる経団連や金融庁などの各担当者の考え方などもこの本で知ることができる。もちろんその「是非」を問うのではなく、それぞれの組織や担当者個人がそれぞれの立場でベストと思える意思決定をした結果だ。現在ではIFRSの強制適用が「ほぼ」確定しているといえるが、それは2010年現在から見た後知恵にすぎない。実際には、減損会計基準適用の時期についても当時の日本企業のおかれた状況は、かなり深刻だったと思われるし、2010年現在では、これまで取得原価主義や日本の会計風土にこだわる意見は少数派になってきているが、それも5年ほど前にはまた違う空気が存在していたのは事実。こうした国際的ルールが浸透していくひとつのプロセスがここにはある。今後会計基準のみならず、そのほかのジャンルでも国際ルールの採用が検討される可能性があるが、一番重要なのはどの分野でどの基準がどの団体が中心となって策定されるのかを見極めることであり、見極めたうえでなるべく早くから「基準設定」に日本が積極的に関与していくことだろう。
 大学の教授の先生方や金融庁(大蔵省)のここ10年の変化の激しさと、意見の変化が、経済環境ひいては世界の投資者になにが必要なのかを決める重要な時期だったことを物語る。IFRSの時代になっても税法との問題やIFRSそのものの改訂の問題は引き続き大きな国際問題として課題に上り続ける。思えば会計が外交問題のひとつに数えられる時代になるとはだれも2000年当時は予想していなかったに違いない。

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