2010年7月18日日曜日

誇大自己症候群(筑摩書房)

著者:岡田尊司 出版社:筑摩書房 発行年:2005年 本体価格:740円
 自己を実際よりも過大に評価し、しかも現実とファンタジーの区別がつかなくなる…。「世代論」で10代や20代を一括して表現するときには、常にそうした「自我肥大」が指摘される。この本では10代、20代に限定せずに、社会全体にそうした風潮があるとしているが、80年代も90年代にも「自我が肥大」して現実世界のクオリアが欠けているという評論は存在した。理想をもつのは若者の特権だし、それが社会全体に満ち溢れたとしても必ずしも悪いことではなかろう。そうした意味では、なんらかの「誇大自己」は必要悪な部分はある。それが犯罪に結びついてしまってはもちろん問題なのだが…。芸術家などは、おそらく「誇大自己」の塊のようなものだろうし、「異常な事件」の根底にあるのと同じく、優れた作品の根底には「自分の理想」「自分の過大評価」はあるだろう。となると、「誇大自己」の存在を認めつつ、それを「症候群」としてとらえるのではなく、その「誇大自己」を活用できる方法を提案するやり方もあるのではないかと思った。自己を必要以上に過小評価するケースでは、社会全体の活力が弱くなるというデメリットがある。自己を尊重しつつ、さらに他者も尊重できるプロセスさえ確立できれば特別に問題にするようなこともないはず。さらに統計データがほとんどないあたりが社会全体を論じるには説得力に乏しい。疫学的な観点から評論をするのであれば、やはり最低限のデータがないと、必ずしも書籍の内容に「参考になりました」とは言えないあたりが辛い。現実に成就できない誇大な自己評価が、ファンタジーの世界に充足感を求める…てなことが書いてあっても、「それはそうかもしれないなが、そうでない人のほうが実際には多いのでは」という疑問符付ですべてを読んでいかなければならないあたりが、やや読書をしていて苦痛。理想と現実の二元論で語るにしても、もう少し書き手の側に平均以上のファンタジー(想像力)か、あるいは逆にデータ(客観性)がないとちょっと厳しいテーマではないかと思う…。

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