2008年12月13日土曜日

神のふたつの貌(文藝春秋)

著者:貫井徳郎 出版社:文藝春秋 発行年:2004年
 とある田舎町にある教会に突然闖入者が現れる…。場面設定としては花村萬月の「王国記」などを彷彿とさせるが、著者はプロテスタントの教会という設定で寄宿舎も存在せず、教会の造りは大正時代のもの。12歳、20歳、40歳半ばのそれぞれの時代を切り取って3章立てにしたこの小説。日本語の第三人称や舞台設定の著述を上手にトリミングして読者を不安に陥らせ、最後にカタルシスを迎えるという手法。この長編小説ではかなり効果的に用いられている。もともと書き下ろしではなく、巻末に掲載されているが「別冊文藝春秋」に1999年から2001年にかけて3回に分けて掲載されたものを1冊にまとめたもの。プロテスタント、父と息子、大正時代の教会という「質素」「剛健」「沈黙」といったキーワードが連想される架空のプロテスタントの街で、「悪」や「神」を追求し、独特の「救済」をほどこしながら最後は「高見」に上り詰める親子。結局ラストで「主人公」は神を見るのだが、それは冒頭で主人公がカエルを見ていた構図とちょうど逆の構図で下から上を見上げる形で終了する。地図上の「横」の移動はきわめて少ないが、空間的な縦の視線の移動と時間軸の移動が心地よいミステリー小説というジャンルを超えたミステリー小説。

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