2008年12月24日水曜日

迷宮遡行(新潮社)

著者:貫井徳郎 出版社:新潮社 発行年:2000年 評価:☆☆☆☆
 デビュー作「慟哭」に続く2作目「烙印」を大幅にリライトして書き直された長編小説。平凡かつリストラされた元サラリーマンが主人公で、失踪した妻を追いかけていくうちに「迷宮」の中に入り込む…。ロス・マクドナルドを意識したという作品は、日本の小説というよりもやはりハードボイルド路線の語り口に近く、物語は常に第一人称で語られる。読者は主人公とともに、妻探しのラビリンスにいざなわれるが、ラストはやはり哀しく苦い。
 「迷宮」の中でやはり主人公が求めるのは一種の救済だ。解説で法月倫太郎氏は「巡礼」と表現されているが、キリスト教的な「救済」がどこにみいだされるのかが一連の作品の底流にあるような印象を受ける。物語の設定されている場所は常に「東京」なのだが、この舞台がたとえば仙台であっても、またヨーロッパのどこかの場所であっても十分通じるものだろう。破滅に陥るとわかっていても捜し求める「妻の残像」は、アーサー王物語にもどこか通じるものを感じる。惜しむらくはやはり「妻」のキャラクターがいまひとつ「わかりにくい」「十分でない」「唐突」という点だけか。
 日常生活の中でなんらかの「救い」を求めるビジネスパーソンにこそより高い評価を受ける作品かもしれない。ミステリー小説というよりも切ない片思いの恋愛小説のようだ…。

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