2008年12月31日水曜日

人が壊れていく職場(光文社)

著者:笹山尚人 出版社:光文社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
「自分を守るために何が必要か」という副タイトルがついている。「法令を守らない使用者」と「立場の弱い労働者」の間で労働法にもとづいて解決を図る弁護士が著者。主に著者が実際に扱った労働事件をベースにしたケーススタディ方式で、2008年3月1日施行の労働契約法や労働基準法・労働組合法について学習する教材としても便利。また2006年から施行されている労働審判についても紹介されている。契約内容の変更については申込と承諾が必要という「給与の切下額」のケーススタディが個人的には非常に面白い。「就業規則の変更」によてる適法な切下のケースとそれに関連する最高裁の判例(平成12年9月7日みちのく銀行事件)の紹介である。
 最高裁では労働者の同意なくして労働条件を変更することは許されないという前提を確認、さらに就業規則の変更に合理性が必要、合理性の判断については使用者側の必要性と労働者の不利益との勘案、さらに「賃金給料」については「高度の必要性に基づく合理性」、さらにその合理性の判断には手続きや代償措置なども含むとかなり踏み込んだ判例が示されている。「財務資料に限定されない」という総合的判断の必要性が呈示されているとも考えられ、今後さらにいろいろな裁判例がでてくると最高裁判例の考え方がより精緻化され、余計なトラブルも減少するだろう。「我が国社会におけるい一般的状況」という文言も判例の中に見られ、ヒトと企業との間で発生したトラブルの解決には非常に役に立つ新書。著者の明解な語り口と考え方も好感がもてる。

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