2008年12月31日水曜日

血と暴力の国(扶桑社)

著者:コーマック・マッカーシー 出版社:扶桑社 発行年:2007年
 1980年代。「激情」型の犯罪が増加傾向を示す中、「古い世代」に属する老保安官ベルが独白を始める。コーエン兄弟によって「ノー・カントリー」というタイトルで映画化された作品の原作。「純粋な悪」のシンボルとして物語の中で動き始めるプロの殺人者アントン・シュガー。メキシコ国境近くで、麻薬の受け渡しの現場に遭遇したベトナム帰還兵のモスは、麻薬と現金を奪って逃避行を始める。そして途中でぶつかりあう「殺す側」の論理と「殺される側の論理」。
 「悪魔がいると考えなくちゃ説明のつかないことがたくさんあるんだ」と語るベルは次第に自分の父親と人生を重複させていく。社会の闇と心の闇を淡々と描く文章スタイルと簡潔な表現で、老保安官は時代の変化ではなく、自分の変化についても悟っていく。いわば一種の「心の成長物語」といえなくはない。犯罪小説ではあるのだが、どこの時代でもどこの国にも起こりうる荒廃した精神の物語。

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