2011年7月25日月曜日

この世で一番大事な「カネ」の話(角川書店)

著者:西原理恵子 出版社:角川書店 発行年:2011年 本体価格:552円
西原さんの著作物には10年前にかなりはまり、当時に出版されていた刊行物はさかのぼって全部入手し、全部読みつくした。その後ちょっと著作物から遠ざかっていたが、その間に文化庁の賞や手塚治虫賞などを受賞。この世の中でうまくやっていけない人たちをメインにすえた物語をつむぎだしていた。この本では、幼少時から高校時代、高校との法廷闘争の時代、大学時代そしてフリーとして活動しはじめた時代から結婚の話などを一貫して「カネ」の視点から分析してみせる。あんまり抽象的話で人生を語られると「ちょっと苦手」という読者も、この本でなら「人生ってそういう面があるかも」とうなづけるかも。いずれも等しく人生を語る手段であるとともに、選択を拡げてくれる手段。ただし生活が困窮してくるとやりくりにコマって、髪型から生活観まできつ~い感じになってくる。田舎のパーマをかけたきっついオバハンができあがるまでのプロセスが明解に語られているのだが、なるほどきついパーマは一回かけたパーマを長引かせるためのものだったか。「最下位ならば最下位の戦い方」という発想はなんとなく野村克也監督にも通じるものがないでもない。天賦の才能よりもサービス精神や、月給30万円を目標とする…といった地道なテーマは、賭博にはまっていたころの西原さんとは裏腹の着実な生き方。その後、バングラデシュのグラミン銀行などに興味を覚えていく過程にはなくなられた元ご主人の生き方も関係しているとのこと。「個性」といった言葉ではなかなか現実をとらえにくいが、「カネ」という具体的な指標をもってくると見えてくるものがある。生活や人間関係をおしはかる上でも「カネ」の話、一回この本を読んで考えてみるのも悪くない。

2011年7月24日日曜日

人生で最も大切な101のこと(海竜社)

著者:野村克也 出版社:海竜社 発行年:2011年 本体価格:1300円
野村克也氏の著作がここ数ヶ月連続している。もう重鎮でしかも高齢。後の世代に伝えたいことが多々あるのかもしれない。映画評論家の淀川長治さんがやはり晩年インタビュー集なども含めて大量の本を集中してだされていたが、長年の経験や思い出を含む知の集積を書籍の形で残しておこうという出版社の編集者の思惑もあるのかもしれない。また、東北楽天ゴールデンイーグルスがいまひとつ成績が振るわない。野村氏が退団したあとのブラウン監督で最下位。その後星野監督になったが、おおがかりな補強をしてもいまひとつ。これだったら、あと1年くらいは野村監督でいってもよかったのではないか…とヤクルトファンの私でも思ったりする。シーズンで2位の監督を「高齢」を理由に解任するのにはちょっと無理があったように思うからだ。
で、内容的には一種の学習方法や凡人がいかに努力を積み上げるべきか…というID野球の基本について語られている。これまでの著作物を101の見開き構成でまとめなおしたものと考えてもいいだろう。ある意味では読みやすいが、見開き構成にこだわったためか、「あともう少し…」と著述の短さがもったいなく感じることもないではない。ただまだ野村克也氏の考え方を知らない人にとっては入門書として読める。「最後は不器用が勝つ」という言葉に対して、「器用な人はうまくたちまわるなあ」と考えいてる不器用な人にとっては励ましにもなるだろう。

2011年7月23日土曜日

IFRSで企業業績はこう変わる(日本経済新聞出版社)

著者:窪田 真之 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2011年 本体価格:1700円
いささか高い本ではあるが、IFRS肯定の書籍としては非常にわかりやすい本。しかも出荷基準や定率法などの具体的な事例を使用してIFRSの「原則主義」(?)を説明してくれている。新聞などでよく紹介されている売上高の計上は「検収基準で」という著述もこの本を読めば原則主義と実質主義にてらせば出荷基準をIFRSが否定しているわけではないことが判明する。収益計上のタイミングとしては紆余曲折はあったものの工事進行基準をめぐる一連の動きが興味深い。支配の移転が徐々に進むケースでは工事進行基準を採用し、そうでない場合には工事完成基準を採用するという説明で、日本の工事契約会計基準よりもすんなり頭に入ってくる。現時点ではIFRSの日本の上場企業連結決算の導入は2015年をずれこむ公算が高い。が、前倒しでIFRSを導入する企業があるほか、会計基準もIFRSの動きをにらんだ整備が進められることだろう。「強制適用」には反対だが、各企業がそれぞれの実情に応じて随時IFRSを導入していく動きが強まれば、その段階で包括利益やIFRSの「強制適用」にふみきればよく、強制適用ではなく、選択適用によって投資家による企業の選別も進むことだろう。「新聞」はあくまで「きっかけ」でより体系的に何かを学習するさいには本を読む。記事やウェブの位置づけを再確認させてくれた本でもある。

トップレフト(角川書店)

著者:黒木亮 出版社:角川書店 発行年:2005年(文庫版) 本体価格:705円(本体価格)
 日本の何某自動車企業のトルコ子会社がイラン工場建設資金の案件を起案。富国銀行の今西は案件のトップレフトの座を獲得し、国際協調融資をすすめる。だが、元富国銀行でその後アメリカの投資銀行に身を投じた「龍花」が富国銀行に復讐を期してたちはだかる。1980年代~1990年代のアメリカ投資銀行の生態や、日本の巨大金融機関の内幕が記されていて興味深い。黒木氏は関西系都市銀行の三和銀行出身だが、相当モデルとして三和銀行の実情を「転用」しているのではないかと推察される。ロシアの通貨暴落やLTCMの破綻もこの小説を通じて、その「崩壊」のすさまじさを実感することができる(文庫本284ページ)。 文庫版にも地図が掲載されているが、日本のトルコ自動車企業がイランに子会社もしくは工場を建設するのにはそれなりの理由があることがわかる。トルコとイランは地続きで、しかもイランはアメリカとEUの経済覇権の争いの場と化していた。ただしトルコには膨大な対外債務がある。その対外債務について稟議書をまとめる今西の仕事ぶりがまた興味深い。さらには架空の「富国銀行」の組織改変などの一連のリストラをめぐる内部の人間の評価もまた興味深い。
 マクロ経済学や国際金融の「雰囲気」を知るのにも役立つほか、「もし別の人生をおくっていたら…」などと考えたときにも役に立つだろう。この本が黒木氏のデビュー作品だが、その後の作品につながる1980年代~90年代の国際金融ビジネスパーソンの遺伝子を見出すことができる。

2011年7月22日金曜日

普通のダンナがなぜ見つからない?(文藝春秋)

著者:西口敦 出版社:文藝春秋 発行年:2011年 本体価格:857円
本の装丁とタイトルをみて「文藝春秋の新書?」とはにわかに信じがたく、さらにはイラストの「ヘタウマ」ぶりや東京大学卒業で元日本長期信用銀行の行員でさらには外資系コンサルタントも勤めて…という著者のキャリアも目をひく。これ、文藝春秋の新書だが、天下の文藝春秋が発刊しただけあって非常に面白いうえ、数字と論理に裏づけされた内容や手法はほかのジャンルにも応用可能。「なぜ客が来ないのか?」という疑問に答えるノウハウがつまっている。その意味ではマーケティングの本ともいえるだろう。
「なぜ普通のダンナが見つからないか?」という答えについてはマーケティング的な解釈をすれば「普通のダンナという市場が非常に狭い」。普通の条件をすべて満たす男性は確率的には100人に1人しかおらず、あとはたいてい何らかのクセをもっているという意味。さらに東京都の調査がひきあいにだされ、公的資料をもとに平均年収400万円以上の独身男性の比率は3.5パーセント。実際には男性人口の19.5パーセントが年収400万円以上なのだが、残りは妻帯者。地方にいくとさらにこの比率は下がるということになる。価値観が近いというのも非常に難しい比率で…といった数字によるアプローチ。これで市場の規模が明らかになり、さらには統計予測を展開。いわゆるマーケティングリサーチで、これによって問題点が浮き彫りになっていく。そして現実と理想のハザマを埋める解決策が呈示されていくのだが、ここからが外資系コンサルタント出身の著者の腕の見せ所。日本的経営とはまた異なる視点で新しい解決策がずかずか呈示されていく…。3割はある程度はジョークが入っていると推測されるが7割がたは真面目な内容、さらにはマーケティングの入門テキストとして読みといていくと、著者が活用しているオリジナルのデータはおそらく入手が難しいが、一般統計から仮説をとりだしていく手法は仕事でもプライベートでも応用がきく。レジに男子がもっていくにはややタイトルがちょっとアレなのだが、それでも勇気を出して男子が読む価値は女性と同じくらい、「あり」、である。

仮想儀礼 上巻・下巻(新潮社)

著者:篠田節子 出版社:新潮社 発行年:2011年 本体価格:上巻・下巻ともに781円
何かを失ってそれを回復していく「物語」とするならば、この小説の主人公はいきなり職も家族もお金も夢も失っている。失業段階で新興宗教を設立し、俗物の塊であるにもかかわらず「奇跡的に」順調な滑り出しをみせる。だがしかし…という展開だが、無くしたものを回復していくプロセスで、最初は予想もしていなかった方向に主人公はすべりだしていく…。映画「エレファントマン」の微妙な崩壊、転落がこの小説ではいきなりぐらっとくる。そして最後はもはや何も取り上げるものがないほど転落していくにもかかわらず、なぜか「無くしたもの」はちゃんとそれなりに回復しているという絶妙の展開。予想もしない形で予想できない結論におもむくという意味では、これほど期待を心地よく裏切ってくれる小説はない。世俗にまみれていれば、「おそらくそうなるだろう」「ただしかし…」という後に尾をひく終わり方がすごい。同じ宗教的な題材を扱った著者の「ゴサインタン」(双葉社)もすごい小説だったが、この本も最初の数ページでその世界に引き込まれ、一気に上巻・下巻を読み終わってしまう。超面白い。

世の中の意見が〈私〉と違うとき読む本(幻冬舎)

著者:香山リカ 出版社:幻冬舎 発行年:2011年 本体価格:740円
よくある「自分探し」とかいう本とは違う。タイトルの〈私〉がギュメで囲まれているのがポイントで、そもそも「私」なる存在自体も「他人がいるからこそ規定できる」という前提の上に書かれている。つまりポストモダン。近代が「物語」をつむぐ作業で、その後、近代から現在をへてポストモダンへ。そしてまた21世紀は「近代」に戻りつつある。原子力発電の事故も、これ、世界史に残る大事件のはずなのだが、新聞やテレビで描写されるのは「近代的な物語」。で著者は当然のことながら、明確な結論を出さないのだが、これはまあ普通の人間ならばこそ。この「普通」が一番難しい。他人が規定して、しかも「私」もそこそこに満足する生活とはこれかなり難易度の高い生き方で、意見が世の中と違うとか同じとかいうレベルの話ではない。ギッチギチの近代でもなく、スカスカのポストモダンでもない「ほどほど」の生活。そんなほどよい生活を実現することの難しさはセミナーやら自己啓発本では達成できないレベル。したがって、この本のタイトルで購入した人はがっかりしたかもしれない。ただ、逆に息苦しさから救われる人もいるかもしれない。
「私」「自分」「個性」といった抽象的で難易度の高い概念から解放されて、それなりに、ほどほどに、そして「自分探し」もしないですむ生き方。それって何も考えないで生きるのと非常によく似ているが、一定程度考えてからその道を選んだほうが、「な~んとなく」楽しい人生が送れそうな予感がする。そんな予感に道筋をつけてくれるような内容の本。ここのところ相次いで出版されている著者の本の1冊だが、タイトル的にも内容的にも価格に見合う内容。

2011年7月17日日曜日

脳科学より心理学(ディスカヴァー)

著者:和田秀樹 出版社:ディスカヴァー 発行年:2011年 本体価格:1000円
国際ブックフェアのディスカヴァーのブースで2割引で発売されていたのを購入。新書の相場としてはページ数によもよるがだいたい700円台~800円台。それが書店では1,050円というのはやや高めの印象。それがそれなりに書店に並んでいるのは、企画力があるせいか。この本では脳科学ブームへの「反省」と認知科学の応用方法について語られている。ガードナーの多重知能という概念が98ページで紹介されているが、これが興味深い。言語的知能や論理数学知能というように「知能」を分割して、さらにそれぞれが一定の関係を保ちつつも、それぞれを別個に伸ばすことができるという概念。いわゆる先進国のなかで「音楽」が義務教育の学習項目に入っているのは日本だけというのも初めて知る。メタ認知の重要性については、和田秀樹氏は昔から述べられているが、「多重知能」「知識と推論」「メタ認知と自己修正」の3つを柱にすえて著述されたのはこの新書が初めてではないか。「曖昧さ」を許容する度合いで認知的成熟度を測定するというのも面白い(白黒つけたがるのは認知的成熟度が低く、曖昧な部分も世の中にはあるというのが認知的成熟度が高いということになる)。タイトルがややまた高尚そうになっているが、実際には、知能や感情コントロールについてすぐさま実生活で使えるスキルが紹介されている使い勝手のいい本ではないかと思う。

2011年7月15日金曜日

財務会計入門 第3版(中央経済社)

著者:田中健二 出版社:中央経済社 発行年:2011年 本体価格:2600円
一時期過熱気味だった簿記会計ブームも終焉を迎え、適正規模で適正な範囲内で真面目に取り組む社会人や学生だけが残った…という印象がある。というわけで入門書関係の書籍も値上げが相次ぎ、「入門書」と銘打ちながら3000円を超える書籍も珍しくなくなったが、この本は第1版からこの第3版に到るまで良心的な価格設定とわかりやすい説明。本当の入門者に対しては本体価格も敷居を低くするべきだし、内容面も「難しい」ところは意図的に省略すべきだろう。その点、退職給付会計については入り口の紹介で「あとは専門書にあたってください」としている著者の真摯な姿勢は正しい。
会社に向かう途中で本を広げながら読み進め、第2版との違いをかみしめていく。すぐさま理解できる内容ではないものの改訂版を読み返しているうちに、「意図」はやはり脳裏にしみこんでくる。理解のためには反復演習は不可欠だが、喫茶店でデリバティブの問題演習などができない社会人にとっては、繰り返し読み返し、違いを認識することで新たな会計基準の方向性を見定めることができる。おそらく第4版が出版されたらまた購入して読むだろう。A5判とやや持ち歩きにくい判ではあるのだが、活字は大きく余白もとってある。書き込みもできるので、メモなどの準備がいらないのも嬉しい。

図書館戦争(角川書店)

著者:有川浩 出版社:角川書店 発行年:2011年(文庫本) 本体価格:667円
公序良俗を乱し、人権侵害の言論を取り締まるための「メディア良化法」が施行されて約30年後の架空の日本を描写。法務省に本拠をおくメディア良化委員会と良化特務機関とそれに対抗する図書防衛員は地方行政独立機関として軍事演習を続けている。そんな図書館戦争のさなかに「図書」を守るために笠原郁22歳が入隊する…。一種の青春小説なのだが、それでも「ちょっとこれリアル…」てな描写もあちこちに見受けられる。すでに東京都でも青少年育成条例などで図書の取り締まりが始まっているが、「俗悪」なメディアが俗悪な行動を誘因する…という考え方が本当に正しいのかどうか。実際には、検閲制度が徹底しているファシズム社会ほど隠蔽されてはいても陰惨な殺人事件が発生しているのではないか…。検証の余地がないまま、「青少年に悪い影響を与えるから」という理由で、図書の貸し出しなどが自粛されたり販売が抑制されるのはあまり好ましい状況ではないと思える。たとえ俗悪であっても、選択の自由は常に読者の側にある。最初は「…」という小説の世界にはまってもその後の読書経験はだれにも予測はできない。メディアの自粛に過敏なアメリカであれだけの犯罪率というのも理解しがたいわけだが…。
ともあれ、この本では最終的に大人同士の「話し合い」で必ずしも武力闘争ばかり続けているわけでもない。子供から大人に到るプロセスでは「あうん」の呼吸を読み取ることもまた必要にもなる。ちょっと笑えて、ちょっと考えて。そんな図書館戦争シリーズ、これからまだまだ文庫本で続刊予定。

2011年7月14日木曜日

犯罪小説家(双葉社)

著者:雫井 脩介 出版社:双葉社 発行年:2011年(文庫本) 本体価格:714円
今回の直木賞は池井戸潤さんが受賞された。勇気のでる企業小説を書く作家だったのでけっこう嬉しい。で、この本はそうした受賞の知らせを待つ場面から始まる。昭和50年代の東京を舞台にした人間模様を描いた作品、そしてそれを映画化しようとする「奇才」と呼ばれるクリエーター。この二人が映画化をめぐって「意見交換」しつつうかびあがってきた「自殺サイト」。
正直、「こんな取り合わせで普通、こういう人間たちのコミュニティが成立するのか?」という疑問もわくが、ラストまで読むとつじつまがあうようにできている。で、扱っている題材は「自殺」「死への衝動」といった暗いテーマなのに読者の側はラストまで読むと「生き続ける執念」みたいなものまで感じるという趣向。「どんでん」というのはまさにこういう展開なのだろう。いやミステリーというほどのトリックはなく、またフリーメールを利用した旧ウェブサイトの常連からのアクセスも奇妙、さらに卒業アルバムの管理はいくらなんでもまともな大学図書館であればそれほど簡単なことではない。が、そういうご都合主義を乗り越えてまでも「ラスト」へ向かうこの著者の執念。文庫本の表紙のイラストもよくできているし、舞台設定が東京の多摩市というのもうまい。技ありベストセラーといったところだろうか。

2011年7月11日月曜日

1分間マネージャー(ダイヤモンド社)

著者:K.ブランチャード、S.ジョンソン 出版社:ダイヤモンド社 発行年:1983年 本体価格:1165円
初版は1983年で購入したのは、2010年6月30日第92刷という超ロングセラー本。MBAなどでも指定テキストになっているというが、読み手の対象は別にMBAでなくてもマネージャーでなくてもいいのではないかと思った。存在そのものが利益になる人でなければマネージャーではなく、すべてをシンプルに凝縮してフィードバックできる人が理想的、というメッセージ。だから1分間マネージャーなのだが、目標立案からフィードバックまですべて1分間で。しかも教えるのは必ずある程度年配のキャラクターというのはこの手のビジネス本の王道か。ただ他の人が気分よくなれるようにすることが最大の成果というのは古くて新しい命題かもしれない。業績評価システムだと一定期間は業績はあがるかもしれないが、その後は不快体験が増加するために非常に生産効率が落ちるケースが多い。ま、そういう観点からすると「鬼の管理職」とかいわれている人が案外会社を去るとそれっきりになっちゃう理由もわからぬでもないのだが…。
他の人の長所と短所をわきまえて長所を活かす配置と職責にして、さらには、方向性を指し示せば大体のところ後は人は人それぞれの目標に向かって歩き始める。けっきょくマネージ(やりくりする)ってそれ以上のものでもそれ以下のものでもないような気がする。

この経済政策が日本を殺す(扶桑社)

著者:高橋洋一 出版社:扶桑社 発行年:2011年 本体価格:720円
日本銀行の白川総裁はその昔通貨供給量の増加と物価の上昇について因果関係をみとめていたらしい。高橋氏はこの著書でも一貫して金融政策重視、通貨供給量の緩和とインフレターゲットの導入をとなえている。デフレも円高も円の供給量が需要量に対して相対的に不足しているから起こる現象なので円の供給量を増加すればデフレも円高も緩和するという意見はわかりやすい。ただ、それでもいささか心配なのは、やはりハイパーインフレの問題と円安誘導の問題。ハイパーインフレは絶対に起きないというのがインフレターゲットの導入の論拠となっているが、これは本当にそうなのだろうか。過去の事例では多少の年月をかけてインフレはおさまったとされるが、過去の事例がそうであったからといって次もそうなるとは限らない。定式化された貨幣数量説も新たな経済事象でまた否定されることもありうる。円安誘導は輸出産業を潤わせるが、円高傾向はこれから火力電力にシフトしていくであろう電力産業にはむしろ好材料のはずだ。必ずしも円高が悪いわけではない。適正でない為替水準が悪いということにつきる。増税よりも国債発行で収入をまかなうべきという論理には賛成。時間的に分散して負担したほうがこうした災害支援にはベターだろう。いきなり増税でこれが今後も続くとなれば経済的影響ははかりしれない。中見出しはやや過激だがこれは編集者がつけたものではないかと推察される。内容的には非常にオーソドックスな論理構成で、マンキューのぶあつい経済学の本をいきなり読むよりもこの本で全体の概要をつかんでおくほうがきっと経済学の面白さは伝わるのではないかと思う。良書、ただし考え方に賛成する人としない人の両方はでてくるだろう。

野村の見立て(東邦出版)

著者:野村克也 出版社:東邦出版 発行年:2011年 本体価格:1143円
プロ野球ファンのなかには「野村克也」と聞くだけで拒否反応を示す人もいるが、その一方で野村克也氏の講演やDVD、著書などに興味を示すファンも多い。mixiの野村克也氏のコミュニティは1万人を超えているが、これはかなりの人気といえる。この本は過去のエピソードというよりも現在活躍中の現役の投手や選手についての「見立て」を紹介したものだが、非常に辛らつな内容となっている。「状況を読む」「察知する」という言葉自体は非常にさらっと書かれているのだが、商品開発でいえば、時代のムードを読むということで各種の統計調査や統計処理がどうしても必須でさらに、それを読み解く感性も必要になる。116ページにはソフトバンクが短期決戦に弱い理由を打線の散発性にもとめているがなるほどと思った。一番打者と二番打者とでは役割が違う。それぞれの打順の打者が次を考えて打席にたつケースとそうでないケースとでは短期決戦では大きな差がでてくるだろう。チームの編成にあたっては野村氏は「未来創造能力」や「無形の力」を重視している。無形の力とはいいかえれば数字にはでてこない人間性としての魅力やそのほかの要素だが、これは定式化できないだけに難しい。ただデジタルに置き換えられる部分はデータで、それ以外の要素は芸術作品やそのほかの活動でしか得られない別の要素で…ということではあるまいか。

2011年7月8日金曜日

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論(集英社)

著者:荒木飛呂彦 出版社:集英社 発行年:2011年 本体価格:760円
ホラー映画はけっこうみているつもり。この本で紹介されているホラー映画も大半は見ている。ゾンビ映画は特に個人的にも思い入れのあるジャンルだが著者は「無個性こそがゾンビ映画の特質」と指摘している。ロメロ監督の代表作でもあるわけだが、この「ゾンビ」と「イージー・ライダー」が同時期に時代に躍り出たのは偶然ではあるまい。無個性化しつつある大衆化社会とそれにノーをとなえるヒッピー文化。この系譜はその後「バタリアン」シリーズにつながり、「28日後…」で一定の収束をむかえる。その一方で著者はかなりマイナーな「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年)まで扱っているから相当なもの。私自身はDVDで見たのだが、英国文化を基礎にしたこのゾンビ映画、ロメロ監督の系譜とはまったく異なる「ゆるい展開」。著者自身もうまく位置づけが出来ているとは思えないのだが、「笑い」を取り込んだのがこの「ショーン…」の功績か。「アイ・アム・レジェンド」にやや評価が甘く、「REC」というスペイン映画にもやや評価が甘い。いずれもゾンビ映画の系譜ではあるのだが、どちらかというとこの2作、「アイ・アム…」はウィル・スミスに頼りっぱなしだし、「REC」は「ブレアウィッチプロジェクト」など他の映画のアイデアをぱくりっぱなしという印象。
第2章では「田舎にいったら襲われた」という分類で、ここになんとマニア系「ヒルズ・ハブ・アイズ」が取り扱われているのに感動。いや、これかなりえぐい作品でしかも舞台設定は核実験後の洞窟に謎の「人間集団」が…というもので…。時期的な問題もありいか自粛。「蝋人形の館」もリメイク版がまたすばらしくこの2作が扱われているだけでも著者のホラー映画への思い入れがわかる。この第2章で扱われているのはゾンビ映画とは違って「コミュニケーションの断絶」。「ジーパーズ・クリーパーズ」というフランシス・フォード・コッポラが製作を担当したホラー映画もこの系譜に分類されているが、なるほどという分析が続く。第2章で紹介されている「ホステル」「脱出」「わらの犬」はいずれも名作ホラー映画なので未見の方はぜひ。そして第3章では、「ビザール殺人鬼」。ということでフレディやらジェイソンやらが活躍するホラー映画。第4章はスティーブン・キング原作のホラー映画ということだが、スティーブン・キングは好きではないのでこれもパス。この後は構築系ホラーなど種々の分類がなされているのだがやはりゾンビ映画と「田舎にいったら…」の分析が秀逸。最初の2章にすべてがあるような気がする。「キューブ」「ナインスゲート」「ディスント」などこのほかにも個人的には好きな映画がてんこもり。他の人間の映画評論ほど面白いものはない。特に「だれがみているんだろう」てなB旧映画についてこれだけ楽しく語ってくれる本は貴重。

2011年7月2日土曜日

仕事に活かす!マインドマップ(PHP研究所)

著者:主藤 孝司 出版社:PHP研究所 発行年:2010年 本体価格:820円
マインドマップという手法、かなり色々な本がでているが本家はもちろんトニー・プザン。いろいろなセミナーも開催され、公認ガイドブックも多数出版されているが、実際に始めてみるといろいろなルールが厳しく途中で挫折する人も多い。実は私自身もいったん始めて挫折し、その後はコレトの多色ボールペンやfreemindのようなフリーウェアで簡単に単語を展開していく程度。ただそれだけでも実は効果が実感できる。単語と単語のつながりが視覚的に理解できるうえ、書き直すことによって因果関係などいろいろな関係性が再確認できる。記憶への定着度も高い。で、もう公認ルールなどにとらわれず、まずは自分なりに書きやすいように書いてみては…というのがこの本の主張。そしてそれは正しいと思う。堅苦しくあれこれ考えいるとやはりマインドマップを書く以前に道具やらルールやらにとらわれすぎて肝心の目標(何かを理解する、複数の概念を整理する…)が達成できないままになってしまう。複雑なルールは後回しにしてでもまずボールペンで黒一色しかなくても試せるものは試してみよう…という読者を激励してくれる内容になっている。自分の仕事としては目次に相当する部分をこのマインドマップ(まがい)の図を作成することで流れを作った記憶がある。非常に手間はかかるが、マインドマップを修正することで「全体の流れ」を自分なりに整理することができるのでやはり効果は高い。ちなみに左脳は論理的だとか右脳は直感的だとかいう説はかなり怪しい。右でも左でもそれなりに役割分担はあるかもしれないが、どちらがどうとはっきり言い切っている医学書や心理学の本にはまだお目にかかかっていない。論理性とイメージとを両方取り込んで複雑な概念をすっきりさせる手法…程度に考えて、仕事や読書ノートに役立てるというのが正しいツールの使い方か。