2011年7月8日金曜日

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論(集英社)

著者:荒木飛呂彦 出版社:集英社 発行年:2011年 本体価格:760円
ホラー映画はけっこうみているつもり。この本で紹介されているホラー映画も大半は見ている。ゾンビ映画は特に個人的にも思い入れのあるジャンルだが著者は「無個性こそがゾンビ映画の特質」と指摘している。ロメロ監督の代表作でもあるわけだが、この「ゾンビ」と「イージー・ライダー」が同時期に時代に躍り出たのは偶然ではあるまい。無個性化しつつある大衆化社会とそれにノーをとなえるヒッピー文化。この系譜はその後「バタリアン」シリーズにつながり、「28日後…」で一定の収束をむかえる。その一方で著者はかなりマイナーな「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年)まで扱っているから相当なもの。私自身はDVDで見たのだが、英国文化を基礎にしたこのゾンビ映画、ロメロ監督の系譜とはまったく異なる「ゆるい展開」。著者自身もうまく位置づけが出来ているとは思えないのだが、「笑い」を取り込んだのがこの「ショーン…」の功績か。「アイ・アム・レジェンド」にやや評価が甘く、「REC」というスペイン映画にもやや評価が甘い。いずれもゾンビ映画の系譜ではあるのだが、どちらかというとこの2作、「アイ・アム…」はウィル・スミスに頼りっぱなしだし、「REC」は「ブレアウィッチプロジェクト」など他の映画のアイデアをぱくりっぱなしという印象。
第2章では「田舎にいったら襲われた」という分類で、ここになんとマニア系「ヒルズ・ハブ・アイズ」が取り扱われているのに感動。いや、これかなりえぐい作品でしかも舞台設定は核実験後の洞窟に謎の「人間集団」が…というもので…。時期的な問題もありいか自粛。「蝋人形の館」もリメイク版がまたすばらしくこの2作が扱われているだけでも著者のホラー映画への思い入れがわかる。この第2章で扱われているのはゾンビ映画とは違って「コミュニケーションの断絶」。「ジーパーズ・クリーパーズ」というフランシス・フォード・コッポラが製作を担当したホラー映画もこの系譜に分類されているが、なるほどという分析が続く。第2章で紹介されている「ホステル」「脱出」「わらの犬」はいずれも名作ホラー映画なので未見の方はぜひ。そして第3章では、「ビザール殺人鬼」。ということでフレディやらジェイソンやらが活躍するホラー映画。第4章はスティーブン・キング原作のホラー映画ということだが、スティーブン・キングは好きではないのでこれもパス。この後は構築系ホラーなど種々の分類がなされているのだがやはりゾンビ映画と「田舎にいったら…」の分析が秀逸。最初の2章にすべてがあるような気がする。「キューブ」「ナインスゲート」「ディスント」などこのほかにも個人的には好きな映画がてんこもり。他の人間の映画評論ほど面白いものはない。特に「だれがみているんだろう」てなB旧映画についてこれだけ楽しく語ってくれる本は貴重。

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