2011年7月23日土曜日

トップレフト(角川書店)

著者:黒木亮 出版社:角川書店 発行年:2005年(文庫版) 本体価格:705円(本体価格)
 日本の何某自動車企業のトルコ子会社がイラン工場建設資金の案件を起案。富国銀行の今西は案件のトップレフトの座を獲得し、国際協調融資をすすめる。だが、元富国銀行でその後アメリカの投資銀行に身を投じた「龍花」が富国銀行に復讐を期してたちはだかる。1980年代~1990年代のアメリカ投資銀行の生態や、日本の巨大金融機関の内幕が記されていて興味深い。黒木氏は関西系都市銀行の三和銀行出身だが、相当モデルとして三和銀行の実情を「転用」しているのではないかと推察される。ロシアの通貨暴落やLTCMの破綻もこの小説を通じて、その「崩壊」のすさまじさを実感することができる(文庫本284ページ)。 文庫版にも地図が掲載されているが、日本のトルコ自動車企業がイランに子会社もしくは工場を建設するのにはそれなりの理由があることがわかる。トルコとイランは地続きで、しかもイランはアメリカとEUの経済覇権の争いの場と化していた。ただしトルコには膨大な対外債務がある。その対外債務について稟議書をまとめる今西の仕事ぶりがまた興味深い。さらには架空の「富国銀行」の組織改変などの一連のリストラをめぐる内部の人間の評価もまた興味深い。
 マクロ経済学や国際金融の「雰囲気」を知るのにも役立つほか、「もし別の人生をおくっていたら…」などと考えたときにも役に立つだろう。この本が黒木氏のデビュー作品だが、その後の作品につながる1980年代~90年代の国際金融ビジネスパーソンの遺伝子を見出すことができる。

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