2011年7月22日金曜日

仮想儀礼 上巻・下巻(新潮社)

著者:篠田節子 出版社:新潮社 発行年:2011年 本体価格:上巻・下巻ともに781円
何かを失ってそれを回復していく「物語」とするならば、この小説の主人公はいきなり職も家族もお金も夢も失っている。失業段階で新興宗教を設立し、俗物の塊であるにもかかわらず「奇跡的に」順調な滑り出しをみせる。だがしかし…という展開だが、無くしたものを回復していくプロセスで、最初は予想もしていなかった方向に主人公はすべりだしていく…。映画「エレファントマン」の微妙な崩壊、転落がこの小説ではいきなりぐらっとくる。そして最後はもはや何も取り上げるものがないほど転落していくにもかかわらず、なぜか「無くしたもの」はちゃんとそれなりに回復しているという絶妙の展開。予想もしない形で予想できない結論におもむくという意味では、これほど期待を心地よく裏切ってくれる小説はない。世俗にまみれていれば、「おそらくそうなるだろう」「ただしかし…」という後に尾をひく終わり方がすごい。同じ宗教的な題材を扱った著者の「ゴサインタン」(双葉社)もすごい小説だったが、この本も最初の数ページでその世界に引き込まれ、一気に上巻・下巻を読み終わってしまう。超面白い。

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